胡散臭うさんくさ)” の例文
渠は唸る様な声を出して、ズキリと立止つて、胡散臭うさんくさく対手を見たが、それは渠がよく遊びに行く郵便局の小役人の若い細君であつた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
皺だらけの手を取つて無理に振ると、お元は迷惑さうにその手を引つ込めて、胡散臭うさんくさくお銀の顏を上眼使ひに見上げるのでした。
人猿は四方から集まって来てひしひしと荷車を取り囲み胡散臭うさんくさい眼付きで私を見た。その時私は一掴みの焼き肉を後方目掛けて投げつけた。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が、警部は最初から苦り切っていて、ろくに口もきかず、胡散臭うさんくさげに支配人バー・テンのすることすことを、ジロジロうかがっていた。
銀座幽霊 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
女は座席にくと悠々小田島のシガレットケースから煙草たばこき出してふかし始めた。そして胡散臭うさんくさそうに女を見乍らあつらえを聞く給仕男へ横柄に
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
駅前にあった古着屋の暖簾のれんをくぐり、交渉したが、古着屋のあるじは私の方を胡散臭うさんくさそうに見て、買うわけにはいかないということを大阪弁で云った。
遁走 (新字新仮名) / 小山清(著)
けれどもこの時御寮人ごりょうにんの前へ呼ばれた佐助の態度がオドオドして胡散臭うさんくさいのに不審が加わりめて行くと辻褄つじつまの合わないことが出て来て実はそれを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
けれどむろんそこに文素玉の影もあろう筈がなく、ただ道行く人が一人胡散臭うさんくさそうに立ち止って彼の姿を眺めていた。くそ忌々しいと彼は再び口に出して呟いた。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
お祖母さんは、まだ胡散臭うさんくさそうに、次郎の顔と、散らかった品物とを見くらべていたが、ふと思いついたように、長持のそばに寄って行って、その中を覗きこんだ。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼等かれらの中には熊手くまでを動かしていた手を休めて私の方を胡散臭うさんくさそうに見送る者もあった。私はそういう気づまりな視線から逃れるために何度も道もないようなところへみ込んだ。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
奥から主人らしい男が仏頂面をして出て来て、胡散臭うさんくさそうに渡辺刑事を見た。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
オランダへもベルギーへもらずに、ロンドン警視庁スコットランド・ヤアド特高とっこう課長ベイジル・タムスン卿の手で、胡散臭うさんくさいやつだというので、フォルマス港からこっそりとんでもないスペインへ追放してしまう。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「アナヒ……、ふむ、なるほど。……道理で胡散臭うさんくさいと思ったよ」
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は突然胡散臭うさんくさい人間に挨拶あいさつをされたような顔をした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
医者はかう言つて、牧師のやうに胡散臭うさんくさい顔をした。
逢ふほどの男女は、みな胡散臭うさんくさい眼をして二人を見た。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「ヒャッ」と云うと振り返ったが、「何かご用でごぜえますかな?」胡散臭うさんくさそうに伊集院を見る。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
繼穗つぎほもなくヌツと出たのは、南部坂下屋敷の裏門を預かる老爺、今まで手内職をして居たらしい埃を拂つて、凡そ胡散臭うさんくささうにガラツ八の間伸まのびのした顏を眺めやるのでした。
『ぢやモウ、病床とこに就いたの?』と低目に言つて、胡散臭うさんくさい眼付をする。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かの女は醜悪そのもののような恰好かっこうで私の方を胡散臭うさんくさそうに見ている
鳥料理 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
大して胡散臭うさんくさいこともないじゃないか、と自分に云ってみました。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
仙吉は始終の様子を胡散臭うさんくさい顔をして見て居たが
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一度は或る没落した家の婆さんが胡散臭うさんくさそうに
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
胡散臭うさんくさいなという眼が小林のまゆの下で輝やいた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
継穂つぎほもなくヌッと出たのは、南部坂下屋敷の裏門を預かる老爺おやじ、今まで手内職をしていたらしいほこりを払って、およそ胡散臭うさんくさそうにガラッ八の間伸びのした顔を眺めやるのでした。