ひるがへ)” の例文
旧字:
種々くさ/″\なる旗章は其さきひるがへれり。光景は拿破里ナポリに似たれど、ヱズヰオの山の黒烟を吐けるなく、又カプリの島の港口によこたはれるなし。
が、肝腎かんじんの天神様へは容易よういに出ることも出来なかつた。すると道ばたに女の子が一人ひとりメリンスのたもとひるがへしながら、傍若無人ばうじやくぶじんにゴムまりをついてゐた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして主人の劇しく身をひるがへして引き返す時、その着てゐる青い着物の裾で払はれて驚いて目を挙げる。
運河の岸まで歩いて来ると、潮気のある風が海から吹いて来て、二人の着物の裾をひるがへす。二人は色々に塗つた仮面の下の熱した頬の上に、暁の冷たい息を感じたのである。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
し、この危機に処して、一家の女房たるものが、少しく怜悧れいりであつたならば、狂瀾きやうらんを既に倒るゝにひるがへし、危難をいまだ来らざるにふせぐは、さして難い事では無いのである。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
文人若し其許可を得ればあたかも重爵厚俸を得しが如くに喜びたりき。然れどもひるがへつて彼の家政を察すれば即ち貧太甚しかりき。文政六年彼れ家を鴨河の岸三本木に買ひ水西荘と称す。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
想像は忽ちひるがへつて、医学博士磯貝きよし君の目が心に浮ぶ。若いやうな年寄つたやうな、蒼白あをじろしわのある顔から、細い鋭い目が、何か物をねらふやうな表情を以て、爛々らんらんとしてかゞやく。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あちこちひるがへし見給ひしが、忽ち我面を仰ぎ視て、おん身はアヌンチヤタの同じ時ナポリに在りしをば、まだ我に告げ給はざりきと宣給ふ。
そこでひるがへつて三円の果亭くわていを見ると、断じて果亭だと言明する事が出来ないにしても、同様に又断じて果亭でないとも言明する事の出来ないものである。
鑑定 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
品は初一念をひるがへさずに、とう/\二十で情交を結んだ綱宗が七十二のおきなになつて歿するまで、忠実に仕へて、綱宗が歿した時尼になつて、浄休院と呼ばれ、仙台に往つて享保元年に七十八歳で死んだ。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
顏、手、足なんどをば、薔薇の花もて作りたり。こあらせいとう(マチオラ)の花、青き「アネモオネ」の花などにて、風にひるがへりたる衣を織り成せり。
ボオドレエルがパイプの詩はもとより、Lyra Nicotiana をひるがへすも、西洋詩人の喫煙をづるは、東洋詩人の点茶てんちやを悦ぶと好一対かういつつゐなりと云ふを得べし。
時に「オリアンタアル」の作者、忽ち破顔して答ふるやう、「詩人は唯一人いちにんあるのみとや。善し、さらば我は如何いかに」と。意コツペエが言をひるがへしておのが仰損を示せるなり。
ひるがへつて僕自身のことを考へると、——もつとも僕の小説は水上君の小説よりも下手へたかも知れない。
変遷その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この界隈かいわいの家々の上に五月のぼりひるがへつてゐたのは僕の小学時代の話である。今では、——誰も五月のぼりよりは新しい日本の年中行事になつたメイ・デイを思ひ出すのに違ひない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)