けい)” の例文
Hさんはけいこまかい西洋紙へ、万年筆まんねんふでで一面に何か書いて来た。ページかずから云っても、二時間や三時間でできる仕事ではなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けいに引いた黄金の筋よりも墨の跡がはるかに輝いていた。軸、表紙、箱に用いられた好みの優雅さはことさらにいうまでもない。
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
故にけいの引いてある部分はわずかに紙面の三分の一の面積しかない。それへ四号活字より小さい文字で細く細く書き続けてある。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それも十三行のけいを五六十枚もじて、一行に一地名ずつを書いたのだから、少なくとも二千三千の小字を存する町村は稀でなかったのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
改良半紙へけいを引いた下敷を入れて、いなぶねと署名したまま題も置かず、一行も書けない白紙へむかって、錦子は呻吟うなっている日がつづいた。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
橙色のけいのはいった半ぺらの原稿用紙には「時代の小説家」という題と名前が書かれているだけで、あとは空白だった。
四月馬鹿 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
唾でふやけた鉛筆で小さいけいの間に書き馴れない西洋式の数字をはめて行くのであるから、絶間なく、弾むような調子で次から次へ流れる株の高低を
猫車 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ある日この子は大きなとりの紙をどこからか買って来て、綺麗きれいにボール紙にりつけて、四十八に割った細いけい縦横たてよこに引いて、その一つ一つの目に
祖母 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
下へけいを入れた紙をあてがい、その上へ半紙を置いて、神尾は、さらさらと文字を綴りはじめました。暫くして
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けいのあるレターペーパーに、万年筆で書いた女文字の手紙であった。省三はちらと見たばかりで婢の顔を見て
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それを開くと、中はけいなしの日附は自由に書きこめるという式の自由日記で、さきの丸い鉛筆をめ書きこんだらしい金釘流の文字がギッシリと各頁に詰まっていた。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
机にむかつて、復た私は鉛筆の尖端さきを削り始めた。今度の長物語を書くには、私は本町ほんまち紙店かみやで幅広な方のけいの入つた洋紙を買つて来て、堅い鉛筆でそれに記しつけることにして居る。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
やむなく二十四字詰二十行に自分でけいを引いてそれに墨筆で書いたのを覚えている。
青いけいの入った西洋紙に横に細字で三枚、どうか将来見捨てずに弟子にしてくれという意味が返す返すも書いてあって、父母に願って許可を得たならば、東京に出て、しかるべき学校に入って
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
真書しんかきで細い字で書いており、その中に挟んでおいたけいまでがまだそのまま残っている。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
上の方のは薄紫、下の方のは金色、封筒の天地にも金色のギザギザで輪郭が取ってある。レターペーパーは一面にくうすい緑でつたの葉が刷ってある上に銀の点線でけいが引いてある。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私は繊維の強い包み紙を引き掻くようにき破った。中から出たものは、縦横たてよこに引いたけいの中へ行儀よく書いた原稿ようのものであった。そうして封じる便宜のために、おりたたまれてあった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)