細工場さいくば)” の例文
いつも日あたりのいい縁側だとか、そこから廊下つづきになった硝子張ガラスばりの細工場さいくばだとかが、——一つ一つ別々に浮んでくるきりである。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
はいるとすぐ、奥の細工場さいくばから台所までめぐっているような土間だった。右側は一だん高いかまちになっていて六畳ばかり敷いてある。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこのそうしたさまになったと一しょに、伝法院の横の、木影を帯び、時雨しぐれをふくんだその「細工場さいくば」は「ハッピー堂」と称する絵葉書屋になった。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
幸兵衞は返答に困りまして、うろ/\するうち、お柳は表の細工場さいくばの方へげて行きますから、長二が立って行って
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
吹所の一廓は、吹屋、打物場うちものば下鉢取場したはちとりば、吹所棟梁詰所、細工場さいくば色附場いろつけばの六むねにわかれていた。
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
燈火ともしびの赤黒い、火屋ほや亀裂ひびに紙を貼った、笠のすすけた洋燈ランプもとに、膳を引いた跡を、直ぐ長火鉢の向うの細工場さいくばに立ちもせず、そでつぎのあたった、黒のごろの半襟はんえりの破れた
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二重の上手につづける一間の家体は細工場さいくばにて、三方に古りたる蒲簾がますだれをおろせり。庭さきには秋草の花咲きたるかきに沿うて荒むしろを敷き、姉娘桂、二十歳。妹娘楓、十八歳。相対して紙砧かみぎぬた
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
細工場さいくば、それは土間になっているところと、居間とが続いている、その居間のはし、一段低くなっている細工場を、横にしてそっちを見ながら坐ったのである。仕方がない、そこへ茶をもって行った。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
蛾次郎がじろうがおどおどしながら、細工場さいくばのとなりの雨戸をあけて、ひろい土間へはいると、手燭てしょくをもって奥からつかつかとでてきたのは、主人の卜斎ぼくさいであろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぢゆう上手かみてにつゞける一間の家體は細工場さいくばにて、三方にりたる蒲簾がますだれをおろせり。庭さきには秋草の花咲きたる垣に沿うて荒むしろを敷き、姉娘かつら廿歳。妹娘かへで、十八歳。相對して紙砧かみぎぬたつてゐる。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
何人なんぴとのぞかせぬ、細工場さいくば陶戸すえどを閉めきって、一生一品の製作に精進しょうじんしているのだ。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
市松は、頭をかかえて、散々にもてあそばれていたが、やがて、切れたたこのように、わが家へすッ飛んで来ると、父親が細工場さいくばで使っている刀の折れをなたにしたのを持って、また出て行った。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
細工場さいくばの職人が夕顔の垣根越しに、母屋のほうへ呶鳴どなっていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれですか。ありゃみんな細工場さいくばでございますよ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)