筑波山つくばさん)” の例文
「どうも君は自信家だ。剛健党ごうけんとうになるかと思うと、天祐派てんゆうはになる。この次ぎには天誅組てんちゅうぐみにでもなって筑波山つくばさんへ立てこもるつもりだろう」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だから桜田事件も起これば、大和やまと五条の事件も起これば、筑波山つくばさんの事件も起こる。それから長防二州ともなれば、今度は薩長両藩ともなる。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この境内に立つと、根岸田圃ねぎしたんぼから三河島村みかわしまむら、屏風を立てたような千住せんじゅはんの木林。遠くは荒川あらかわ国府台こうのだい筑波山つくばさんまでひと目で見渡すことが出来る。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
古いところでは、常陸の筑波山つくばさんが、低いけれども富士よりも好い山だといって、そのいわれを語り伝えておりました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
中学の二年の時だったかしら、私は筑波山つくばさんに登った。初夏だった。天気はよかったのだが、下山の途中、突然霧がわいて来た。私達はぶなの林の中を歩いていた。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
水守は筑波山つくばさんの南の北条の西である。兵は進んで下総堺の小貝川の川曲に来た。川曲は「かはわた」とんだのであらう、今の川又村の地で当時は川の東岸であつたらしい。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ところが先年筑波山つくばさんの北側の柿岡かきおかの盆地へ行った時にかの地には珍しくない「地鳴り」の現象を数回体験した。その時に自分は全く神来的に「はらみのジャンはこれだ」と感じた。
怪異考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
日本第一の近江おうみのびわは、そのぐるりがほとんど山ですが、霞ガ浦は関東平野かんとうへいやのまんなかにあるので、山らしい山は、七、八はなれた北の方に筑波山つくばさんむらさきの色を見せているだけで
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「それにまた一方では、拙者の郷里水戸の地方に筑波山つくばさんの騒ぎが起ってな」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その日は好く晴れていたので、白鬚橋の上からは遠くに筑波山つくばさんが見えた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
なにもいざこざはない、はなしかへつててゆつくりするが、これからぐに筑波山つくばさん參詣さんけいだ。友達ともだち附合つきあひでな、退引のつぴきならないで出掛でかけるんだが、おあきさん、おまへ呼出よびだしたのはほかことぢやない、路用ろようところだ。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
会津あいづ薩摩さつまとの支持する公武合体派の本拠をくつがえし、筑波山つくばさんの方にる一派の水戸の志士たちとも東西相呼応して事をげようとしたそれらの種々の計画は
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
常陸ひたち筑波山つくばさん下では、白頭翁はくとうおう即ち「おきなぐさ」を、男の児はヤマノフデといっていることが、横瀬夜雨よこせやう君の随筆にも見えているが、新作であろうと思う。
其時良兼が応じ戦は無いで筑波山つくばさんへ籠つたのは、丁度将門が前に良兼に襲はれた時応戦し無かつたやうなもので、公辺に対して自分を理に敵を非に置かうとしたのであつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「そりゃ、半蔵。老人ばかりなら、最初から筑波山つくばさんには立てこもるまいよ。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あの大和やまと五条にも、生野いくのにも、筑波山つくばさんにも、あるいは長防二州にも、これまで各地に烽起ほうきしつつあった討幕運動は——実に、こんな熾仁親王たるひとしんのうを大総督にする東征軍の進発にまで大きく発展して来た。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)