立身たちみ)” の例文
「何だねえ、お前、大袈裟おおげさな。」と立身たちみに頭から叱られて、山姥やまうばに逢ったように、くしゃくしゃとすくんで、松小僧は土間へしゃがむ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せり上げの間はすでに柱に歌を書きをはり、立身たちみにてやや下手に向き、墨斗やたての紐を巻き居る体なり。笠は水盤によせかけあり。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
二十年来、蔵人に仕えている老僕おとなの話では、納戸ぬりごめの板敷を這って逃げまわるのを、ひと時、立身たちみになって冷然と見おろし
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
真竹またけ立身たちみの居合抜く手見せずすぱりずんとぞ切りはなちける
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「ずっと、ずっとずっとこちらへ。」ともう真中へ座蒲団ざぶとんを持出して、床の間の方へ直しながら、一ツくるりと立身たちみで廻る。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これにて権太びつくりし「何をして居やがるのだ」としかりつけ「早くいつてさういへ」といひつつ立身たちみにて土瓶をとり、茶をついで飲まんとす。
段々れて来てお前さん、この頃じゃあ、立身たちみになりましょうと、喧嘩の虫が声をかけると、それから明るくなりますぜ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
矢田平が落ししふくさを拾ひ、開けて船切手を見「まちや/\、用がある」と呼止め、切手は左の袂に入れ、立身たちみにて斜に下手に向ひ、左の袂の手をつつぱり
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
立身たちみで、框から外を見たが、こんなかどには最明寺、思いも寄らぬ令嬢風に、急いで支膝つきひざになって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……こがらしかれぬまへに、雪国ゆきぐにゆき不意ふいて、のまゝ焚附たきつけにもらずにのこつた、ふゆうちは、真白まつしろ寐床ねどこもぐつて、立身たちみでぬく/\とごしたあとを、草枕くさまくら寐込ねこんで
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と婆さんは、老いたる客の真面目なのを気の毒らしく、半纏着の背中を立身たちみおさえて
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
立身たちみになり、片手を卓子につきながら、低声こごえで何か命じて、学生にそのペンを運ばしめていたが、ちょっと筆を留めて伺った顔にうなずいて見せて、光起はと立直った時、ふと、帯をしているお夏を見て
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戸袋とぶくろへ、立身たちみなゝめにちかづいて
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)