突掛つっか)” の例文
何か知らん痛いものに脚の指を突掛つっかけて、危く大噐氏は顛倒しそうになって若僧につかまると、その途端に提灯はガクリとゆらめき動いて
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
本堂の中にと消えた若い芸者の姿は再び階段の下に現れて仁王門におうもんの方へと、素足すあしの指先に突掛つっかけた吾妻下駄あずまげた内輪うちわに軽く踏みながら歩いて行く。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
唐突だしぬけに毒を吐いたは、立睡たちねむりで居た頬被りで、弥蔵やぞうひじを、ぐいぐいと懐中ふところから、八ツ当りに突掛つっかけながら
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云って、起上おきあがりながらズンと金太郎の額へ突掛つっかけたから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
(ぶらつく体をステッキ突掛つっかくるさま疲切つかれきつたる樵夫きこりの如し。しばらくして、叫ぶ)畜生ちくしょうざまを見やがれ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
兄さん、此処ここしお突掛つっかけて来るところだからネ、浮子釣うきづりではうまく行かないよ。沈子釣おもりづりにおしよ。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大分禿げ上った頭には帽子ぼうしかぶらず、下駄げたはいつも鼻緒はなおのゆるんでいないらしいのを突掛つっかけたのは、江戸ッ子特有のたしなみであろう。仲間の職人より先に一人すたすたと千束町せんぞくまちの住家へ帰って行く。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さんが突掛つっかけ草履で、片手を懐に、小楊枝を襟先へ揉挿もみさしながら、いけぞんざいに炭取をまたいで出て、敷居越に立ったなり、汚点しみのある額越しに、じろりと
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼠股引氏は早速さっそくにそのたまを受取って、懐紙かいしで土を拭って、取出した小短冊形の杉板の焼味噌にそれを突掛つっかけてべて、余りの半盃をんだ。土耳古帽氏も同じくそうした。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
湯帰ゆあがりに蕎麦そばめたが、この節あてもなし、と自分の身体からだ突掛つっかけものにして、そそって通る、横町の酒屋の御用聞ごようききらしいのなぞは、相撲の取的とりてきが仕切ったという逃尻にげじりの、及腰およびごし
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
油然ゆうぜんとして同情心が現前まのあたりの川の潮のように突掛つっかけて来た。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
歯の曲った、女中の台所穿ばきを、雪の素足に突掛つっかけたが、靴足袋を脱いだままの裾短すそみじかなのをちっとも介意かまわず、水口から木戸を出て、日の光を浴びたさまは、踊舞台の潮汲しおくみに似て非なりで
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紋着もんつきの着流しで、羽織も着ないで、足袋は穿いていなさったようでやすが、赤い鼻緒の草履を突掛つっかけて……あの廊下などを穿きますな……何だか知りませんが、綺麗な大形の扇を帯に打込んで
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)