真実ほんたう)” の例文
旧字:眞實
このまあ半歳はんとしばかりの間、俺は一体何をして居たらう……ホ……十日も十五日も真実ほんたうにボンヤリして孤坐すわつてたことが有るんだよ
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
誰に遠慮のない鉄斎老人は、時々かうした真実ほんたうの事をいつたものだ。ものずきな世間やら、つんぼでなかつたら老人自身にすら聞かせたいやうな。
真実ほんたうに楠さんに済まないと思ひました私は、裁縫の教場では私等よりずつと高い級に居る楠さんの所へ走つて行きました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「ぢや、吾妻、彼奴きやつが山木のむすめを誘惑して、其の特別財産を引き出す工夫してると云ふのは、ありや真実ほんたうどうだ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
恩愛の娑婆やさかい行きたくないのは真実ほんたうやれど、というて行かぬ訳にはいくもんでなし、行きたいけれど行かれぬし、行きたうなけれど行かねばならぬ。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
昨宵ゆうべもね、母が僕にさう云ふんだ。君が楠野さんとこへ行ツた後にだね、「肇さんももう二十三と云へや小供でもあるまいに姉さんが什麽どんなに心配してるんだか、真実ほんたうに困ツちまふ」
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「さう云へば君だつて、真実ほんたうの遊蕩児でもない癖に、あんな仲間と一緒になつて、得意になつて遊んでゐるのは更に可笑をかしいよ。——一体君はあゝ云ふ連中と一緒にゐて、どこが面白いんだい。」
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
真実ほんたうに此処は月の夜に限ぎる』と僕に聞えよがしに言ひました。
夜の赤坂 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
はからず丑松は敬之進の家族を見たのである。の可憐な少年も、お志保も、細君の真実ほんたうの子では無いといふことが解つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私はそれにも関らず一羽のひよこの真実ほんたうの心持が解りたいとばかり幾年か思ひ続けました。浅野はんの名はそのために今も頭に残つて居るのです。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
手紙が一つ一つ保存されるものと知つたら、どんな人だつてあまり真実ほんたうの事は書きたくなくなるに相違ない。
アレは、新田あらたさん、貴君がひそかに作つて生徒に歌はせたのだと云ふ事ですが、真実ほんたうですか。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「貴様、真実ほんたうか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
まあ、私は母のことをく覚えても居ない位なんです——実際母親といふものゝ味を真実ほんたうに知らないやうなものなんです。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そして昨日きのふの約束は、双方の女中同志がしてくれたものの、竹中はんは真実ほんたうに来てくれるのだらうかと云ふ不安も感じないでは居られませんでした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
志賀しがに居る友達に相談して見るより外に道が無くなつた。牧野まきのさんこそは真実ほんたうに私の力に成つて呉れさうな人だ。私は一週間もそのことを考へた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
人間仲間の手助けを立派にするものなので、男装して男名をとこなにして私は早速郵便配達夫の見習ひに行かう。真実ほんたうにそれはいいことだとお幸は思ふのでした。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
真実ほんたうに世の中は思ふやうに行かねえものさ。兄貴も、是から楽をしようといふところで、彼様あんな災難に罹るなんて。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
真実ほんたうにあなたはお可哀相かあいさうです。お可哀相かあいさうです。あのかたのことをあなたが私へお話しになつたことはたヾ一度しかありません。結婚して一月ひとつきも経たない時分でした。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あれを真実ほんたうに人間仲間の役に立てようと思ふなら大勢の使ふものにしなければならないのだからね。堺へ持つて行つて幾つかの家に分けて拵へたらいいだらうよ。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「えゝ、それは私も難有ありがたいと思つて居ますよ。真実ほんたうに柿田さんは好くして下さるんですからね。」
死の床 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
水も砂原もきら/\と銀色に光つて居ました。川下の方に村の真実ほんたうの橋はあつて、お幸の今渡つて行くのは中村家の人と、此処ここへ出入する者のめに懸けられてある細い細い板橋です。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
彼女の一生が真実ほんたうに其一晩できまつたことを思出した。その晩は姉妹きやうだい二人して眠らなかつたことを思出した。子供と添寝そひねをしながら、お節はそんなことを考へて、復たウト/\して居た。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「あゝ、左様さうとも。真実ほんたうにお前さんは出世しましたわね。どうして、おりきさんはナカ/\の遣り手だなんて、よく吾家うちへ来る人がお前さんの噂サ、その度に、私は自分の鼻が高くなりますよ。」
死の床 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私の真実ほんたうの名はおしゆんです。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
私が真実ほんたうに小諸を去らうと思ひ立つて居ることは塾の同僚に知れて来た。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
真実ほんたうはおしゆんと云ふ名なの
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
真実ほんたうにお前達には時々吃驚びつくりさせられるぜ。」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)