白銅はくどう)” の例文
その頃のカッフェ・パウリスタは中央にグラノフォンが一台あり、白銅はくどうを一つ入れさえすれば音楽の聞かれる設備になっていた。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かれらは、さがしたけれどなかったようです。——哲夫てつおが、しばらくして、くつをげると、した白銅はくどうがころがっていました。
中学へ上がった日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
鐵漿かねだけの半元服姿のお仙は、鏡の前に坐りました。鏡は丸形の白銅はくどう、池田屋の先代の内儀が使つたといふ豪勢なもの、ギヤマンよりも玲瓏れいろうとしてをります。
二人は大きな金魚鉢の横から、「どうもお邪魔じゃまをしました」と挨拶あいさつした。お上さんは「いいえおかまい申しも致しませんで」と礼を返したあと先刻さっき小供にやった白銅はくどうの礼を述べた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こひか、三十日みそかかにせたのは、また白銅はくどうあはせて、銀貨入ぎんくわいれ八十五錢はちじふごせんふのもある……うれしい。ほんこゝろざしと、藤間ふぢま名取なとりで、嬌態しなをして、水上みなかみさんのたもとれるのがある。……うまい。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
グラノフォンはちょうどこの時に仕合せとぱったり音をってしまった。が、たちまち鳥打帽とりうちぼうをかぶった、学生らしい男が一人、白銅はくどうを入れに立って行った。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
清吉せいきちは、上衣うわぎのポケットをさがしていたが、やぶれた鼻紙はながみといっしょに五せん白銅はくどうして
野菊の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
懐中ふところから蟇口がまぐちを出して、五銭の白銅はくどうを小供の手に握らせた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かよは、いっしょになって、ぜにをさがしてやりました。ふちになったみちはしに、紫色むらさきいろのすみれのはなきかけていた。そのかげに、五せん白銅はくどうにぶひかりはなっているのでした。
汽車は走る (新字新仮名) / 小川未明(著)