くた)” の例文
あまり立てつゞけに挨拶したので、くたびれ、いくらか器械的にだが形だけは実直に頭を下げた直造は、稍かすんだ眼で今迎へたばかりの客を見た。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
すはくたびれたと見えて、枡の仕切しきりこしを掛けて、場内じようない見廻みまはし始めた。其時三四郎はあきらかに野々宮さんの広いひたいと大きなを認める事が出来できた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
フランソアズは、そのままわが家へ帰ったが、こんなにくたびれて、こんなにがっかりしたことはなかった。
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
くたびれたら休む、腹が空いたら食う、まったくの行き当りバッタリでなければ浮浪の法悦は味わえない。
浮浪漫語 (新字新仮名) / 辻潤(著)
「早松がかう出るんでは、今年や松茸あかんやろで。」と、助役は大きな欠伸を一つして、くたびれた腦へ、新らしい早松の香氣を、鼻の穴からしたゝかに吸ひ込んだ。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
勝手かつて氣焔きえんもやゝくたぶれたころで、けだ話頭わとうてんじてすこしたたゞれをいやさうといふつもりらしい。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
モーアの建築が馬に曳かれて来る、すぐあとから中世紀の騎士が、楯をかざして乗って出る、衣裳や馬はさぞくたびれたろうと感心はしたが、行列はちっとも面白くはなかった。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
くたびれたから、これくらいにしておいてください」
肌色の月 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
騒ぎくたぶれて衆人みんな散々ちりぢりに我家へと帰り去り、僕は一人桂のうちに立寄った。黙って二階へ上がってみると、正作は「テーブル」に向かい椅子いすに腰をかけて、一心になって何か読んでいる。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
やがて二人ともくたびれ、静かになり、幾はそのまゝ板の間わきの土間へぺつたり坐りこんでしまふと、今はたゞ突張つただけの両腕の間に顔をすり落して、低い子供のやうな啜り泣きを始めた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
しまいにくたびれてしまった。徹宵よっぴてそうしているわけにも行かなかった。
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
先生の気焔きえん益々ますますたかまって、例の昔日譚むかしばなしが出て、今の侯伯子男を片端かたっぱしから罵倒ばとうし初めたが、村長は折を見て辞し去った。校長は先生が喋舌しゃべくたぶれい倒れるまで辛棒して気燄きえんの的となっていた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)