疎遠そえん)” の例文
叔父しゆくふ、叔父。ご無事ですか。さきにお別れしたきり小姪しょうてつ疎遠そえん、その罪まことに軽くありません。ただ今、お目にかかってお詫び申すつもりです」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし嫂がこの方面に向って代助に肉薄すればする程、代助は漸々家族のものと疎遠そえんにならなければならぬと云う恐れが、代助の頭の何処どこかに潜んでいた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新五郎さんは耶蘇やそ信者しんじゃで、まことに善良な人であるが、至って口の重い人で、疎遠そえん挨拶あいさつにややしばし時間をうつした。それから新五郎さんは重い口を開いて
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
土地の人とはまるまる疎遠そえんでもなかった。若狭わかさ・越前などでは河原に風呂敷ふろしき油紙の小屋をけてしばらく住み、ことわりをいってその辺の竹や藤葛ふじかずらってわずかの工作をした。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
半眼にみひらいたこのものは、人をみているのか、人の背後の漠々ばくばくたる空間をみているのか不分明である。人間を無視したような腹だたしいまでの沈黙が私を疎遠そえんにさせた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それはあまりに疎遠そえんな感じでかつてのあなたさまらしくないほど、お便りもなくなっていることからわたくしにはもはやお逢いできないように思われてならないのでございます。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
友人たちはこの結婚に嫉妬しっと羨望せんぼうを感じ、五郎さんとのつきあいも疎遠そえんになっていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その子の素行そこうを疑ったり、あるいはそれが原因で疎遠そえんになったりするものですが、私の母は、私が東京へ行ってから後も、私を信じ、私の心持を理解し、私のめを思ってくれました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
保吉は巻煙草まきたばこに火をつけながら、木蘭の個性を祝福した。そこへ石を落したように、鶺鴒せきれいが一羽舞いさがって来た。鶺鴒も彼には疎遠そえんではない。あの小さい尻尾しっぽを振るのは彼を案内する信号である。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
疎遠そえんになりがちな兄弟などよりも、はるかに骨肉的な情愛をもち合っている仲だったが、生れながらの性格だけは一つのものにりあうことはできない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうち段々手紙の遣り取りが疎遠そえんになって、月に二遍が、一遍になり、一遍が又二月、三月にまたがる様に間を置いて来ると、今度は手紙を書かない方が、却って不安になって、何の意味もないのに
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
捨次郎はその日、とりわけ機嫌よく、そして腰ひくく、自身で接待したり、日頃の疎遠そえんなど詫びあうのである。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
全くの疎遠そえんで今日まで打ち過ぎたのである。
ところへ、荊州の幕賓ばくひん伊籍いせきがたずねてきた。宋忠を放った後で、玄徳は、孔明そのほかを集めて評議中であったが、ほかならぬ人なのでその席へ招じ、日頃の疎遠そえんを謝した。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
立身はいつか友情を疎遠そえんにする。近頃はめったにこうしてくつろぎあう日もない二人だった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『若い手輩てあいの——例えば不破ふわ数右衛門、武林唯七などの躍起組やっきぐみが——近頃、大石に対して疎遠そえんになりだしたのは、あの普請場を見てからだ、ほかにも、大石の肚を、疑っている者が多い』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
劉表は郭外三十里まで出迎え、互いに疎遠そえんの情をのべてから
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)