現世うつしよ)” の例文
この血だらけの魚の現世うつしよさまに似ず、梅雨の日暮の森にかかって、青瑪瑙あおめのうを畳んで高い、石段下を、横に、漁夫りょうしと魚で一列になった。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今やフラミニアは死せり、現世うつしよの爲めには亡人なきひとの數に入りたり。世にはこれを抱き、その唇に觸るゝことを得るものなし。是れ我がせめてもの慰藉也。
何という地上の媚態、嬌姿! だが、現世うつしよの舞台は何と悪魔の眼にあわれに貧しく映ることよ!
踊る地平線:04 虹を渡る日 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
最後の後裔もの現世うつしよにて、未だ曾て類ひなき極悪人たらしめて、彼の重ねる悪業の、一つ一つに先祖さきおやの亡霊どもがひつぎの中で安息を掻き乱され、娑婆では知られぬ苦悩を忍び
御行 (もはやえかねたような詠嘆調えいたんちょうにて)ああ、何と云うたえなる楽の音だ。……これが、このあじけない現世うつしよのことなのだろうか?………いいや、これはもう天上の調べだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
この玲瓏れいろうとして充実せる一種の意識、この現世うつしよの歓喜と倫を絶したる静かにさびしく而かも孤独ならざる無類の歓喜は凡そ十五分時がほども打続きたりとぼしきころ、ほのかに消えたり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
現世うつしよは めでたきみ代ぞ たひらけく 微笑ゑみはせな 百済くだらみほとけ
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
現世うつしよの身の成果なりはてもおもほえて寂しとぞおもふ深山鈴蘭
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
現世うつしよの不朽不死なるきさきにも譬ふべきの「奢侈」。
現世うつしよのいずこにも、きみがためには住所すみかあらじ
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
世のさちを今はたりぬ、人の住むこの現世うつしよ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
……ああ、深くて、うすい現世うつしよのご縁であった
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此の若者、現世うつしよの醜悪の前に
現世うつしよの川に
かげろふ断章 (新字旧仮名) / 原民喜(著)
一目見て、幼い織次はこの現世うつしよにない姿を見ながら、驚きもせず、しかし、とぼんとして小さく立った。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聖母マドンナは、現世うつしよにて君と我との一つにならんを許し給はで、二人を遠ざけ給ひしにて候。
現世うつしようるしの花のひと木立臈たくしろき月空にあり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひろき現世うつしよにさまよえるうつくしさのほのかなるおも
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
世のさちを今はたりぬ、人の住むこの現世うつしよ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
さらば彼洞窟は幽魂の往來ゆききするところにして、我は一たび其境に陷り、聖母マドンナの惠によりて又現世うつしよに歸りしにや。われはかく思ひまどひつゝも、わがたなぞこを組み合せて彼舟中の少女の上を懷ひぬ。
現世うつしようるしの花のひと木立臈たくしろき月空にあり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
現世うつしよには、人の子のすべての夢は吹きちらさる
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
ことに歎くな、現世うつしよかぎりも知らぬ苦界くがいよと。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ことに歎くな、現世うつしよかぎりも知らぬ苦界くがいよと。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
深く深く、現世うつしよに命あり叡智あるもの
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)