あおり)” の例文
ト木彫のあの、和蘭陀オランダ靴は、スポンと裏を見せて引顛返ひっくりかえる。……あおりをくつて、論語は、ばら/\と暖炉に映つて、かっと朱をそそぎながら、ペエジひらく。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この一気に、尾のあおりをくらえる如く、仕丁、ハタとつまずつにい、面を落す。あわててふところ捻込ねじこむ時、間近まぢかにお沢を見て、ハッと身を退すさりながらじっと再び見直す
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中にも旅僧は何をトッチたか、膝で這廻って、雛芥子の散った花片の、あおりで動くのを、美しい魂を散らすまいとか、胸の箱へ、拾い込み拾い込みしたのである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寝返りを打てば、袖のあおりにふっと払われて、やがて次の間と隔ての、襖の際に籠った気勢けはいもと花片はなびらに香が戻って、匂は一処に集ったか、薫が一汐ひとしお高くなった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うの花にはまだ早い、山田小田おだ紫雲英げんげのこんの菜の花、並木の随処に相触れては、狩野かの川が綟子もじを張って青く流れた。雲雀ひばりは石山に高くさえずって、鼓草たんぽぽの綿がタイヤのあおりに散った。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おんなが、這搦はいからまるか、白脛しらはぎ高く裾を払い、立ってすがるか、はらはらと両袖を振ったあおりに、ばっと舞扇に火が移ると、真暗まっくらな裏山から、さっの葉おろしするとともに、火をからめたまま
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鶏は脇の処で恐しい羽ばたきをしますね、私あそのあおりで宙へ上りそうで足も地につきませんや。背後うしろの方でも、前途まえの方でも、その時分にようようワッという人声が陰にこもって聞えました。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここに、ちょいとした橋があるんだが、そのいきおいだからもう不可いけない。水の上で持上って、だぶりだぶりとあおりを打つと、蘆がまた根から穂を振って、光来々々おいでおいでめてるなんざ、なさけなかろうではないか。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)