無頼漢ぶらいかん)” の例文
老人にも若者にも、富豪ふごうにも乞食こじきにも、学者にも無頼漢ぶらいかんにも、いや、女にさえも、まったくその人になりきってしまうことができるといいます。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
吾人は信ず、吾人が手を下す前に、当局者は相当の処分をこの無頼漢ぶらいかんの上に加えて、彼等かれらをして再び教育界に足を入るる余地なからしむる事を。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
市井の無頼漢ぶらいかん贔屓ひいきにしたり、諸芸人を近づけたりした。いわゆる一種の時代の子で、形を変えた大久保彦左衛門、まずそういった人物であった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あらゆるものの外部に彷徨ほうこうしながら機会をねらってる者、浮浪人、無頼漢ぶらいかん、街頭の放浪者、空に漂う寒い雲のみを屋根として都会の砂漠さばくに夜眠る者
二人の無頼漢ぶらいかんがさぞ顔を見合わせて当惑したろうと、その光景を想像することは、ちょっと人間的に愉快である。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
ジョオジ・リン卿が昨日ゲィツヘッドのリード家の一人に就いて話してゐましたが、その人は倫敦ロンドンでも札つきの無頼漢ぶらいかんの一人だつたと云つてゐましたよ。
日夜警戒けいかいしてかれらの襲撃しゅうげきをふせぐのが上策じょうさくであるが、かれらは凶悪無慚きょうあくむざん無頼漢ぶらいかん七人で、諸君は数こそ多いが、少年である以上、苦戦は覚悟かくごせねばならぬ
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
これが当年の無頼漢ぶらいかん、当年の空想家、当年の冒険家で、一度はこの平和な村の人々に持余されて、こもに包んで千曲川に投込まれようとまで相談された人かと思ふと
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
三田派みたはの或評論家が言った如く、その趣味は俗悪、その人品は低劣なる一介いっかい無頼漢ぶらいかんに過ぎない。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
スチルネルを読んで見ると、ハルトマンが紳士の態度で言つてゐる事を、無頼漢ぶらいかんの態度で言つてゐるやうに感ずる。そしてあらゆる錯迷さくめいを破つた跡に自我を残してゐる。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
といってこの六尺豊かの髯面の大男、そのものの人体にんていがまた甚だ疑問で、相手を向うに廻して荒れていなければ、これが無頼漢ぶらいかんの仲間の兄貴株であろうと見るに相違ない。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一種の無頼漢ぶらいかん、もしくは国際ゴロの集団である事を証拠立て得る可能性のある事実と認められるのであるが、もし又、そうでないとすれば、彼等は何等かの理由で表面上
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
たいていは、無頼漢ぶらいかんみたいな生活をしていたのです。芝居なんかで有名な、あの、鼻の大きいシラノ、ね、あの人なんかも当時のリベルタンのひとりだと言えるでしょう。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「だまれ。無頼漢ぶらいかん。貴様は貴様の友達にだけ話しかけろ。ここには貴様の友達はおらん」
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ゆき子はいまごろになつて、かあつと涙がいた。富岡は、無頼漢ぶらいかんのやうな気持ちで、昔の女に金の無心に来てゐたのだが、ゆき子のほとばしるやうな涙を見ると、一寸ちよつと、驚いた様子だつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
わたしの愛情、赤いポストにするまで。と、味噌歯みそっぱを出してわらったのだが、金羊毛の舞踊室から無頼漢ぶらいかんの礼讃を象徴するような意気で猥雑わいざつなタンゴが響いてくると、急に奔放な馬のような女となって
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
と、無頼漢ぶらいかんのような口のききかたをした。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貴婦人レデーが驚ろくから少し静かにしてくれ。君のような無頼漢ぶらいかんといっしょに酒を飲むと、どうも外聞が悪くていけない」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
顔じゅうに無精ぶしょうひげがモジャモジャした熊みたいなやつであった。むろん「人間豹」に頼まれた無頼漢ぶらいかんに違いない。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
きっと、若い野獣のような、すばらしい美丈夫のちまた無頼漢ぶらいかん「チャア公兄哥あにい」に成長していることであろう。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
この主人公がすなはち二人の山の中から出身した昔の無頼漢ぶらいかんなるもので、二十年前には村の中にも其五尺の身を置く事が出来なかつたのであるが、人間の運といふものは解らぬ者で
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
折助の前身には無頼漢ぶらいかんもあれば、武士の上りもある。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「人聞の悪い事を云うな、失敬な。君は実際自分でいう通りの無頼漢ぶらいかんだね。観察の下卑げびて皮肉なところから云っても、言動の無遠慮で、粗野そやなところから云っても」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのえたいの知れぬ無頼漢ぶらいかんは、土地の警察の留置場にぶちこまれたのだが、二人の警官が、曲者の両手をつかんで、ぶら下げるようにしてつれ去ると、あとには、彼の吐いたもののために
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「まあそうだなら、僕のごとき無頼漢ぶらいかんをこんな所へ招待するのが間違だ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人の許諾をずして吾妻橋あずまばし事件などを至る処に振り廻わす以上は、人の軒下に犬を忍ばして、その報道を得々として逢う人に吹聴ふいちょうする以上は、車夫、馬丁ばてい無頼漢ぶらいかん、ごろつき書生、日雇婆ひやといばばあ、産婆
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)