ほむら)” の例文
当然こんな時勢の爪は、恋する者の花園をだんだん狭くするかいばらにしてゆく。といって、抑えられないのが若者のほむらでもある。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恋のほむらは今では石ノ上の心の中に燃えさかっている。僕の恋はしらじらと醒めきってしまった。……小野。僕あ白状する。……僕あなよたけが好きじゃなくなっちゃったんだ!……(顔を伏せる)
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
何れか戀のほむら其躯そのみを燒きくし、殘る冷灰の哀れにあらざらんや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
玉きはる いのちのうめき ほむらして あやなす雲と 群立むらたちにけむ
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
いど硫黄いわうほむら
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「そのようなほむらと炎は、おたがいをあえぐ火宅とするほかのものではありません。それがあの怖ろしい後宮という所です」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宋江は居るに苦しく帰るに帰れず、ただ理性と凡情と、そして瞋恚しんいほむらに、てんめんたるまま、あやしき老猫ろうびょう美猫びびょうの魔力に、うつつをなぶられているのみだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
煩悩ぼんのうほむら、その中での業苦ごうくのがれ難い人間の三界住居ずまい。——それが仏典でいう「火宅」と彼は承知している。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名主と山分けにしてもこれはまた大金儲おおがねもうけと、この因業いんごう旦那はたちどころに慾心のほむらにもなった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それだけに人目のない二人だけの時にはどんなに——と瞋恚しんいほむらに燃えて邪推もされる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青い眉は瞋恚しんいほむらをなし、金色のひとみはあらゆる呪いを焼いているかとも思われますのに、なおひたいからは二本の人さし指のごとき角が被衣かつぎのかげにありありと見てとれるのです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がれる市十郎なるが故に、夜も日も怨みに恨みつめなければ、それを胸に持てなかった。ときには、その市十郎と、お縫との、ふたりを呪咀じゅその像にえがいて身も心もほむらにした。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お胸のうちのほむらのほどは……などといっていた人びとも、その日のお姿を見ては、みな恥かしくなったほどである——などと、後に、局たちからの便りに知って、西行は、人の世の春と
だから彼の眼気がんきたるやまさに殺気のほむらで、そこの窓障子を蹴やぶるがはやいか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
憎悪のほむらを面に燃やして、曹丕は一類を階下にひかせて、一べんをくれるや否
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤夜叉はすぐ男の無情にいどまれて瞋恚しんいほむらになるのであった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これだけが、彼の瞋恚しんいほむらとなっていたものらしい。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)