淫婦いんぷ)” の例文
あの掌の上で翩飜へんぽんと踊つた美女が、毒婦でも淫婦いんぷでもなく、この上もなく優しい女だつたことが嬉しかつたのです。
先天的に男というものを知りぬいてその心を試みようとする淫婦いんぷの目とも見られない事はなかった。それほどその目は奇怪な無表情の表情を持っていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
狐は、事物異名考に淫婦いんぷ紫姑しこが化けた獣であると書いてあるから人間の食いものにはなるまいが、同じ妖術を心得ている狸の方は悪意ある化け方をしない。
たぬき汁 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
フランドルの美術よ、なんじこそはよく淫婦いんぷを知りたれ。よくかの乳房ちぶさ赤く肉たくましき淫婦を愛したれ。フランドルの美術の傑作はいづれかそのしるしならざる。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
僕はそんなことは超越してるが、そう云う風に考えたら貞女も淫婦いんぷも悲しくないなんて女はないさ
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
世の中の無数な売女や淫婦いんぷを越えて、この母ひとりが、きたならしい女に思えてならないのである。
親父は一人娘で甘いのだし、お母さんはまましい仲で、十分しつけが出来ないのだから、無理もないけれど、三千子さんという人は、恐らく生れつきの淫婦いんぷではないかと思うね。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
持って生まれた淫婦いんぷの腕によりをかけてかようにたぶらかし、そのまに少年を引き具していちはやく新規八百石を完全に手中しようとしたからの小しばいにすぎなかったのでした。
独身のさびしさを心に悩む男は、淫婦いんぷを見ようとも、針を持つ女を見てはいけない。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「エエイ黙れッ! このごろの貴様が赤裸々せきららの貴様なら、源十郎はおろか、だれとねんごろになろうとも栄三郎はすこしも驚かぬぞッ! ナ、なんたる……ウヌッ! なんたる淫婦いんぷ——!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今に妻室かないと密会を続けておりましたが、それが、今晩、貴君あなたに見られて殺されることになり、私のうらみもむくいられましたが、私の両親はまだ何も知らずに、淫婦いんぷあざむかれておりますから
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あの汚らわしい淫婦いんぷのナオミ、多くの男にヒドイ仇名あだなを附けられている売春婦にも等しいナオミとは、全く両立し難いところの、そして私のような男はただその前にひざまず
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……ところがこのたび、当地の盧員外ろいんがいどのが、淫婦いんぷ奸夫かんぷのはかりにち、かつまた貪官汚吏どんかんおりの手にかかって、あえなく獄にとらわれ召された。いやすでにめい旦夕たんせきの危急と聞く。……で。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうか私の父にって、まず私の死骸を改葬したうえで、淫婦いんぷの始末をしてください、私の死骸は山の中程の、巌石がんせきそびえている処へ往ってくだされば、すぐ判ります、淫婦を白状さすには
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
淫婦いんぷごとく脚そらざまに投出なげいだ
そして情熱でもなく、夫婦愛でもなく、不思議な悪縁の糸に結ばれ合って、互いに離れることも、殺すことも出来ないで、自暴やけの底に、のた打ち廻っているのが姦夫かんぷ淫婦いんぷの浅ましい実相じっそうであった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女をつくづく天稟てんぴん淫婦いんぷであると感じたことがありましたが、それはどう云う点かと云うと、彼女はもともと多情な性質で、多くの男に肌を見せるのをとも思わない女でありながら、それだけ又
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ああ、それこそ淫婦いんぷ面魂つらだましいを遺憾なくあらわした形相ぎょうそうでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「それが、淫婦いんぷそうだと、誰かがいったことがある」
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)