泉下せんか)” の例文
「もしまた、不幸にも、百日の期間のうちに、それの成らざる時は、ここへ来て、老腹を掻ッ切り、江漢も、泉下せんかに参って謝罪をする」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泉下せんかの父よ、幸に我をゆるせと、地に伏して瞑目合掌すること多時、かしらをあぐれば一縷いちるの線香は消えて灰となりぬ。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
玉之助たまのすけなづ掌中たなそこの玉といつくしみそだてけるしかるに妻は産後の肥立ひだちあし荏苒ぶら/\わづらひしが秋の末に至りては追々疲勞ひらうつひ泉下せんかの客とはなりけり嘉傳次の悲歎ひたんは更なりをさなきものを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
たとへ七二泉下せんかの人となりて、七三ありつる世にはあらずとも、其のあとをももとめて七四つかをもくべけれと、人々に志を告げて、五月雨さみだれのはれ七五手をわかちて
天照大神あまてらすおおみかみおん子孫、神武天皇より九十五代のみかど、後醍醐天皇第一の皇子みこ、一ぽん兵部ひょうぶ卿親王護良もりなが、逆臣のため亡ぼされ、怨みを泉下せんかに報ぜんために、只今自害するありさま見置きて
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「利三来たか。汝なれば、泉下せんかともなって、信長公へごらんに入れる首としてややふさわしい。日頃の友とて、今日の悪行はゆるしがたい」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よかった。親房もあとで聞いてうれしく思った。泉下せんかの正成の心も思いやられてな。いや正成もだが、そちの母も、すぐれた女性にょしょうとみえるな」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またこのことこそ、先君の御霊みたまもかならず泉下せんかにおいて御満足に思し召しておらるるであろうことを信じて疑いませぬ。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さあれば、これが今生こんじょうのお別れ。——ひとえに、ご聖運のひらけますよう、泉下せんかよりお祈り申しあげておりまする
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「世の中、謡のようには参らん。さようなおしえにはなったことか。さらば高時もあまんじて地獄に落ち、世の畜生道を、しばし泉下せんかから見物するか。……」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一の望みだにかのうなれば、吾々共一統、亡主の廟前びょうぜんに於て、人臣の義を果し、公儀を初め奉り、ひろくは天下万民に罪を謝して、泉下せんかに無用の骨を埋めて已むの所存。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泉下せんかの赤橋(英時)どのにも、今日はいかばかり、およろこびか。また、将軍(尊氏)におかれましても、お恨みの一端が、まずはいささかお晴れ遊ばしたでございましょう」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
答「いや、何よりの大供養なりと信じます。かんおおって定まるとか。生きとし生ける者のほんとの声を、尊氏さまも今は千万部のおきょうよりは、泉下せんかで聞きたいとしておられるものと存じまする」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いささか泉下せんかの尊霊をお慰め参らせたものと信ずる。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)