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母樣
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おつかさん
迷兒は
悲さが
充滿なので、そんなことには
氣がつきやしないんだらう、
巡査にすかされて、
泣いちやあ
母樣が
來てくれないのとばかり
思ひ
込んだので
「それも
左樣か。おい、
泣かんでも
可い、
泣かないで、
大人しくして
居るとな、
直ぐ
母樣が
連れに
來るんぢや。」
「
母樣は
何うした、うむ、
母樣は、
母樣は。」と、
見張員が
口早に
尋ね
出した。なきじやくりをしいしい
母樣が、
膝を
彈いて、ずらりと、ずらすやうに
跨いで
下りると、
氣輕にてく/\と
土間を
來た。
「あのね、
母樣。」と、
娘があたりを
兼ねた
體で、
少し
甘えるやうに
低聲で
言つた。
母樣の
前であるから、
何の
見得も、
色氣もなう、
鼻筋の
通つた、
生際のすつきりした、
目の
屹として、
眉の
柔しい、お
小姓だちの
色の
白い、
面長なのを
横顏で、——
團子を
一串小指を
撥ねて