死身しにみ)” の例文
ことによると末世まつせの我々には、死身しにみに思ひをひそめたのちでも、まだ会得ゑとくされない芭蕉の偉さが残つてゐるかも知れぬ位だ。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
女に痴呆ほうけたために前後を忘れていたに過ぎないので、こうして本気になって、女にも酒にも眼をれず、絶体絶命の死身しにみになって稼ぎはじめると
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
引摺廻されたり、羅宇らうのポッキリ折れたまで、そないに打擲されやして、死身しにみになって堪えなはったも、誰にした辛抱でもない、皆、美津さんのためやろな。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どっちも死身しにみ、組むなり火のような息を争って、秘帖をり返そうとする! 渡すまいとする! 組んではもつれ、伏せられては突っぱねる、一方は女、一方は傷負ておい
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああ祈らしめよ、祈らしめよ、片羽かたはねおとして死身しにみに飛ぶ『生』の險路のまた突きやぶれるやう
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
繼「私は女の口から斯ういう事を云い出すくらいだから、そんな事は有りませんよ、本当にお前さんを力に思えばこそ、死身しにみに成って、亭主と思って、お前さんの看病をしました」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
許して下さいといふ私の死身しにみの歎願を無情にも刎付はねつけて、二度私を暗い幽靈の出る部屋に閉ぢ籠めた時に、私の心を掴んだ苦悶の痙攣けいれんやはらげる何ものも、私の記憶にはなかつたのだ。
左膳はこの若造を死身しにみになってさがしているのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おれだって実の子だか嘘の子だか知ってるが、かていから槍で突殺すと云いやんしたから、是から槍で突殺された気になり、死身しにみになって奉公しやすんから、どうぞ心配しんぺいしねえで下せい
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
死身しにみの勇をふるいおこした梅雪の手は、かッと、陣刀のつかに鳴って、あなや、皎刀こうとうさやばしッて飛びくること六、七しゃく! オオッとばかり、武芸者ぶげいしゃのまッこうのぞんで斬り下げてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
死身しにみになつて心を鞭つた
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
ちょうはんばかり、死身しにみになってかかとをけると、こいつどこまで足が達者たっしゃに生まれた男だろう、神馬しんめ草薙くさなぎとほとんど互角ごかくな早さで、長くのびた燕作の首と、あわをかんだ馬の顔が、わずか一けんか二間の
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
死身しにみになって、やってみます」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、お米が死身しにみで声を揚げた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)