歴乎れっき)” の例文
ところが、これが歴乎れっきたる武家の子飼いだった。小俣右衛門ノじょうの家来で、御所の門衛とれ合いでの仕業しわざとわかり、即日、首をはねられた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
徒手空拳くうけんで動乱のなかに跳びこみ、五体をもって秩序を立てようとはしりまわった彼堀盛は、今日はじめて歴乎れっきとして、彼の存在が、刻々と前進し
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
敬太郎はいつか森本の口から、彼が歴乎れっきとした一家の主人公であった時分の話を聞いた。彼の女房の話も聞いた。二人の間にできた子供の死んだ話も聞いた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お前のお母さんを見ろ! 立派なおやしきの『奥女中』として陸の上で歴乎れっきとして暮しをしてゐるではないか。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
「吉川さんのように歴乎れっきとした御自分の家なら兎に角、六年間も同じところから通う大学生さんってものは滅多にありません。それ丈けでも旦那は人格者です」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
歴乎れっきとした、教育のある人間までがそうなるんだ。十五年前だったが、やっぱりロシヤから立派な旦那が送られて来た。兄弟の間に財産を分けるとき、遺言詐欺か何かやったんだ。
追放されて (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
燕青が小粋な若党姿であるほかは三名ともみな歴乎れっきな非役の武家か官人といった風な身なりなので、茶屋では上客と見たか、下へもおかない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は今寡婦やもめでございますが、この間まで歴乎れっきとした夫がございました。子供は今でも丈夫でございます。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旗本といえば歴乎れっきと聞えるが、幕臣山岡家は微禄びろくだし豊かでなかった。庭の草も茫々、障子の貼代はりかえも年に一度を二年越しに持たせたりしている。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしそれは歴乎れっきとした謡手が本気に各自の役を引き受けた場合で、今聞かせられているような胡麻節ごまぶし辿たどってようやく出来上る景清に対してはほとんど同情が起らなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
歴乎れっきとした土豪ばかりだ。何で、自分たち、親のない孤児の遺産など、かすろう。他人のひがみだ。邪推である。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のみならず彼の唱道するところの説は何だか非常識で、迷亭の云う通り多少瘋癲的ふうてんてき系統に属してもおりそうだ。いわんや彼は歴乎れっきとした二人の気狂きちがいの子分を有している。はなはだ危険である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「だが、ご辺も武門、歴乎れっきとした武門だ。元々、おたがいの弓矢は、人を殺すためにあるものではないはずだが」
……おふたりの仲は、楠平も以前から、薄々はお察し申しておりましたが、お嬢様には、親御様のお口から、嫁にろうと誓った歴乎れっきとした良人おっとのある身。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生れて初めて、袴という物を穿き、歴乎れっきとした武家の随身になって、伊織は、やがてお供をして船へ移った。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歴乎れっきとした牧野家の書面を持って来た使なので、誰も疑いもしなかったが、そう云われてみれば、眼にするどいところがあったと、今になってつぶやく者がある。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お名前は申しあげられませんが、立派なお下屋敷もあり、御家来衆もたんといて、歴乎れっきとした……」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平常は一方の知識たり、歴乎れっきたる武将であっても、かかる場合は、ほとんど、例外はなかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何をほざく。他国者とあなどって、西瓜売りとはようもいやったの。美作国吉野郷みまさかのくによしのごう竹山城のあるじ新免宗貫しんめんむねつらに仕えて郷地ごうち百貫、歴乎れっきとした本位田家の子、わしはその母じゃぞ」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
池田家の譜代として、歴乎れっきとした家禄のついていた家がらをつぶし、姫路の藩地からこのように流浪三界の落魄おちぶれの身となり終ったのも、元はといえば、女のためではないか。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……かつはまた、右馬允貞盛ともある歴乎れっきとした嫡男がありながら、父を討たれて、平然と、見過していたりして、お許は、どの顔さげて、以後、郷国の領民にまみえるつもりか
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれのした結果は、おれにむくうより、あの城太郎のほうへより多くたたっている。とにかく、姫路の池田侯に藩臣としてこのおれが歴乎れっきとしていれば、あの子だって、千石侍の一人息子だ。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まして歴乎れっきたる若君がおありになるのに、何で異議や御詮議ごせんぎの必要があろう。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歴乎れっきとした御方、それへ、参上いたしますに、賄賂わいろがましゅう、進物などは、かえって、不敬に思われますし……と云うて、御挨拶のみでも、相成るまいかと、両名して談合いたしましたが
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
革足袋かわたびにわらじ穿きだし、どこといって抑えどころもないが、歴乎れっきとした藩臣でなく、牢人の境界きょうがいであることは、こういう船旅において、ほかの山伏だの傀儡師くぐつしだの、乞食のようなボロ侍だの
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いずれも、新任の若手で、またもちろん、北条一族中の歴乎れっきでもある。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弟子というのも、勿論、歴乎れっきとした本多家の家中なのである。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)