板目はめ)” の例文
残暑の夕日がひとしきり夏のさかりよりもはげしく、ひろびろした河面かわづら一帯に燃え立ち、殊更ことさらに大学の艇庫ていこ真白まっしろなペンキ塗の板目はめに反映していたが
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
角を家の板目はめにつきかけた事も、一度や二度ではない。その上、ひづめの音と、鳴く声とは、うすい夜の霧をうごかして、ものものしく、四方あたりに響き渡つた。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
家は腰高こしだか塗骨障子ぬりぼねしょうじを境にして居間と台所との二間のみなれど竹の濡縁ぬれえんそとにはささやかなる小庭ありとおぼしく、手水鉢ちょうずばちのほとりより竹の板目はめにはつたをからませ
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
残暑ざんしよ夕日ゆふひが一しきり夏のさかりよりもはげしく、ひろ/″\した河面かはづら一帯に燃え立ち、殊更ことさらに大学の艇庫ていこ真白まつしろなペンキぬり板目はめに反映してゐたが
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
江東橋かうとうばしを渡つた向うもやはりバラツクばかりである。僕は円タクの窓越しに赤錆あかさびをふいた亜鉛トタン屋根だのペンキ塗りの板目はめだのを見ながら、確か明治四十三年にあつた大水おほみづのことを思ひ出した。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
家は腰高こしだか塗骨ぬりぼね障子を境にして居間いまと台所との二間ふたまのみなれど竹の濡縁ぬれえんそとにはささやかなる小庭ありと覚しく、手水鉢ちょうずばちのほとりより竹の板目はめにはつたをからませ
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そういう小家こいえの曲り角の汚れた板目はめには売薬と易占うらないの広告にまじって至るところ女工募集の貼紙はりがみが目についた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さう小家こいへまがかどよごれた板目はめには売薬ばいやく易占うらなひの広告にまじつて至るところ女工募集ぢよこうぼしふ貼紙はりがみが目についた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
高く釣りたる棚の上には植木鉢を置きたるに、なほ表側の見付みつきを見れば入口のひさし戸袋とぶくろ板目はめなぞも狭き処を皆それぞれに意匠して網代あじろ船板ふないた洒竹さらしだけなどを用ゐたれば
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こけの生えた鱗葺こけらぶきの屋根、腐った土台、傾いた柱、汚れた板目はめ、干してある襤褸ぼろ襁褓おしめや、並べてある駄菓子や荒物あらものなど、陰鬱いんうつ小家こいえは不規則に限りもなく引きつづいて
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こけの生えた鱗葺こけらぶきの屋根やねくさつた土台、傾いた柱、よごれた板目はめしてある襤褸ぼろ襁褓おしめや、ならべてある駄菓子だぐわし荒物あらものなど、陰鬱いんうつ小家こいへは不規則に限りもなく引きつゞいて
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)