木影こかげ)” の例文
待てしばし、るにても立波たつなみあら大海わたつみの下にも、人知らぬ眞珠またまの光あり、よそには見えぬ木影こかげにも、なさけの露の宿するためし
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
月の光がさしていて、池のおもてが水銀のように輝き、白い花が気味悪いほど真っ白に浮き出して見えます。彼は木影こかげに坐ったまま、夢心地でぼんやりしていました。
魔法探し (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「これは、くろ百合ゆりでないだろうか?」と、かれは、あたまをかしげていました。そして、かたわらの木影こかげにあった、ベンチにこしをかけて空想くうそうにふけったのであります。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
木影こかげうごく。蛙が鳴く。一寸ちょっと耳をびちっと動かした母犬おやいぬは、またスヤ/\と夢をつゞける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しばしありて、今まで木影こかげに隠れたる苫屋のともしび見えたり。近寄りて、「ハンスルが家はここなりや、」とおとなへば、傾きし簷端のきばの小窓きて、白髪の老女おうな、舟をさしのぞきつ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ちょうど半月はんつきばかりたった時、その日も甚兵衛はたずねあぐんで、ぼんやり家にかえりかけますと、ある河岸かし木影こかげに、白髯しろひげうらなしゃつくええて、にこにこわらっていました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ふけ行く夜に奧も表も人定まりて、築山つきやま木影こかげ鐵燈かねとうの光のみわびしげなる御所ごしよ裏局うらつぼね、女房曹司の室々も、今を盛りの寢入花ねいりばな對屋たいやを照せる燈の火影ほかげに迷うて、妻戸を打つ蟲の音のみ高し。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
宿屋がないような辺鄙へんぴなところへ行くと、雨の降る間は幾日も神社の中に泊っていたり、天気の日には木影こかげ野宿のじゅくしたりしました。下にござを敷き上に毛布をかけて、爺さんと猿とは一緒に寝ました。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)