普門品ふもんぼん)” の例文
拙者いまだ観音経は読み申さず候えども、法華経第二十五の巻普門品ふもんぼんと申す篇に、ことごとく観音力と申す事尊大に陳べてこれ有り候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
……けれどまた、そうした毎日にも、普門品ふもんぼん読誦どくじゅは欠かし給わず、日に百遍の念仏は怠らず、月々三島明神の参拝もお忘れなどあられたためしはない
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのむかし芭蕉は頭陀袋に杜詩と山家集と普門品ふもんぼんとを入れてゐたさうだが、素行は支那人や観音様に会つても、むつかしい話の仕様しやうを知らなかつたから
化身即捨身即観世音であることは普門品ふもんぼんをみるとき明らかであろう。したがって苦悩の表情は当然予想される。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
彼女は千枝松が毎晩誘いに来るのを楽しんで待っていた。千枝松もきっと約束の時刻をたがえずに来て、二人は聞き覚えの普門品ふもんぼんしながら清水へかよった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、折しも本堂では、老僧の声で物も哀れに普門品ふもんぼんを読誦しつつ、勤行ごんぎょうかねが寂しくきこえて来ます。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それにわたしの母が熱心な仏教信者で普門品ふもんぼんなどを誦しているうちに、今では全部覚えてしまいました。だからと言ってわたしは、他人に信心を強いることはない。
満廷の朝臣たちがおのゝき恐れ、或は板敷の下にい入り、或は唐櫃からびつの底に隠れ、或は畳をかついで泣き、或は普門品ふもんぼんしなどする中で、時平がひとり毅然きぜんとして剣を抜き放ち
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
普門品ふもんぼん、大悲の誓願ちかいを祈念して、下枝は気息奄々えんえんと、無何有むかうの里に入りつつも、刀尋段々壊とうじんだんだんねと唱うる時、得三は白刃を取直し、電光胸前むなさききらめき来りぬ。この景この時、室外に声あり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仏身より摩睺羅伽まごらかまで、三十三身にげんじたまい、天人、人間、禽獣まで、解脱げだつせしめたもう観世音菩薩の、観世音菩薩普門品ふもんぼんを、血書きして今日で二十一日、写経は完成と思ったに
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこでその頃の人だから、神仏に祈願を籠めたのであるが、観音かんのんか何かに祈るというなら普門品ふもんぼんちかいによって好い子を授けられそうなところを、勝元は妙なところへ願を掛けた。何に掛けたか。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そのうつろな眼を以てしきりに、もっともっととせがむような気がしますものですから、そこで弁信はかたちを改めて、妙法蓮華経観世音菩薩普門品ふもんぼん第二十五を、最初から高らかにしはじめました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ちやく本繩ほんなはに掛りえりには水晶すゐしやう珠數ずずを掛け馬にりて口に法華經ほけきやう普門品ふもんぼん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「さいぜんから見ていたが、一人の客へは、普門品ふもんぼんの一句へ、紅筆べにふで蓮華散れんげちらしを描いて与え、老婆の客へは、空也和讃くうやわさんの一章を、葦手あしで書きにしてやったではないか」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よんどころなしにあの川べりへ持って行って普門品ふもんぼんとなえて沈めて来た。となりの婆どのは丁度そこへ通りあわせて、わたしが髑髏を押し頂いているところを見たのであろう。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
半瓦と並んだお杉は、たもとから、数珠ずずをとり出し、もう無想になって、普門品ふもんぼんとなえていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)