さから)” の例文
涙ながらにかきくどく母の言葉には、さからうすべもなく、妓王はいやいや、妹と他の二人の白拍子と連れ立って西八条に出かけていった。
私が隱さうと思つてゐるものを表に出さうとさからふ私の顏の筋肉のふるへを抑制しようと心配して、どんな風にしたものか判らない。
マンは、青ざめた顔をしていたが、なに一つ、夫の言葉にさからわなかった。火の入った弓張提灯を持って、小走りに、出て行った。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ザアッと湯の波にさからって、朱塗しゅぬり仁王におうの如く物凄く突っ立った陽吉が、声を限りに絶叫したとき、浴客ははじめて総立ちになって振返った。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だが、時代の激しい流れにはさからいようもありません。民族の大きな起伏や、文化の大きな流れのうちには、こういった犠牲は免れないのです。
それに対してさからいつつ、或る必要な力をもっていないという自覚に苦しんでいる、そこから現代のトスカが湧くのである。
何とさからうてみても体験で固めたこの厚い扉のように堅く寂しい男の笑顔に対しては、爪も立たないように思われました。
扉の彼方へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「そんなら、おまはんどないしても、親にさからうて、森田と一緒にならう言ふんやな? そして支那へ行く言ふんやな?」
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
矢張真理はさからえんもので、四丁目から電車へ乗って足の方が楽になると、私は今にも往来へ躍び出して駈け出したくなるような恐怖に襲われ出した。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私はちょっとさからって見せたが、自分が頑張がんばっていればおばあさんの力ではどうにもならないのを知っているものだから、身ぶりだけで抵抗しいしい
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
目をこすつて見れば、夜は明け離れて、旭が麗かに照つて居ます。木の間には枝から枝に渡つて鳴く小鳥、清い山風にさからつて高く舞ふ青空の鷲ばかり。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
西風がドウと吹いて、千里の夏草が皆なびく、さからふ樹もなければ、さへぎる山もない、と、風は野の涯に來て自ら死ぬ。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「兄者、聞こう! 公卿相手の茶坊主ごときやつにさからって、先祖代々の家をつぶして何が面白い——。」
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もしそれに少しでもさからったら、すぐに黒土を打付ぶつけられるのに相違ないのだ。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
その本流と可児かに川のがっするところ、急奔きゅうほんし衝突し、抱合し、反撥する余勢は、一旦いったん、一大鉄城てつじょうのごとく峭立しょうりつし突出する黒褐こっかつの岩石層の絶壁に殺到し、遮断されて水は水とち、力は力とさから
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
女にさからつてゐた身体の力もそのまま抜けて了つたやうな気がした。
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
ガラッ八はまだ腑に落ちない様子ですが、平次にそう言われると、強いてさからうほどの智恵もありません。
「そのお約束で、御奉公に上っております糸でございます。何で御意ぎょいさからいましょう。殿様さえお心変りなさらなければ、末長く——でも、きっとすぐお飽きになって——。」
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
稚い時から極くおとなしい性質で、人にさからふといふ事が一度もなく、口惜くやしい時には物蔭に隠れて泣くぐらゐなもの、年頃になつてからは、村で一番老人達の気に入つてるのが此お定で
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
(金さんも、あまりさからわずに、ええ加減にしとけばええのに……)
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
飛付いて父親の口でもふさぎ度いやうなお勢の熱心さを見ると、さすがに其上さからひ兼ねたものか
ちひさい時から極く穩しい性質で、人にさからふといふ事が一度もなく、口惜しい時には物蔭に隱れて泣くぐらゐなもの、年頃になつてからは、村で一番老人達の氣に入つてるのが此お定で
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
お常は躍起となつてさからひましたが、平次は相手にする樣子もなく、見て來たやうな事を言つて
女はなおもさからいますが、ガラッ八の馬鹿力は、そんな事を物の数ともしません。
女はなほもさからひますが、ガラツ八の馬鹿力は、そんな事を物の數ともしません。
平次もさからいやうはありません。