扮装いでた)” の例文
旧字:扮裝
玉藻もきょうは晴れやかに扮装いでたっていた。彼女はうるしのような髪をうしろに長くたれて、日にかがやく黄金こがね釵子さいしを平びたいにかざしていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのうちに蔵元屋の番頭や若い者らしく、身軽に扮装いでたった男が四、五人、息堰いきせき切って駈付けて来た。ソレ莚よ、棺桶よ、荷い棒よと騒ぎ始めた。
身軽に扮装いでたった播磨房弁円が、ぎすました戒刀を背なかにひそめ、軒から洩れる月影を避けながら、そろ、そろ、と這いすすんでくるのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何故か髪をりて男の姿を学び、白金巾しろかなきん兵児帯へこおび太く巻きつけて、一見いっけん田舎の百姓息子の如く扮装いでたちたるが、重井を頼りて上京し、是非とも景山かげやまの弟子にならんとの願いなれば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
身軽に扮装いでたったが、艶麗あでやかな姿を眺めた。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頼朝は、華やかに扮装いでたった範頼を側近く招いて、門出の神酒みきをくみかわし、その後で、こんな事を云いきかせていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっともあの女も最初は、まだ評判の広がらぬうちに、御免状とお手形を使うて、関所を越えようという一心から、敵討かたきうち扮装いでたったもので御座いましょう。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
が、何だか沈着おちついても居られないので、市郎は洋服身軽に扮装いでたって、かく庭前にわさき降立おりたった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ともあれ、城中の士気配備、よく見てまいるように。——そして供は大勢を連れぬがよい。市松、虎之助のふたりほどともなったらよかろう。なるべくなごやかに扮装いでたって」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人はただ身軽に扮装いでたつだけのことにして、いぬこくを過ぎる頃から城下の村へ忍んで行くと、おあつらえむきの暗い夜で、今にも雨を運んで来そうな生温なまぬるい南風が彼らの頬をなでて通った。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
洛陽の太守韓福かんふくは、見るからにものものしい扮装いでたちで諸卒のあいだからさっと馬をすすめ
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おていは下膨しもぶくれの、眼の大きい、まるで人形のような可愛らしい顔の娘で、繻子奴しゅすやっこ扮装いでたったかれの姿は、ふだんの見馴れているおこよすらも思わずしげしげと見惚みとれるくらいであった。
程なく近々と白波をわけて進んでくるのを見ると、その船上には、白い戦袍ひたたれへ銀の甲鎧よろい扮装いでたったすがすがしい若武者が立っていて、しきりと此方こなたへ向って手を打ち振っている。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
行親 天下ようやく定まりしとは申せども、平家の残党ほろびつくさず。かつは函根はこねより西の山路に、盗賊ども徘徊はいかいする由きこえましたれば、路次の用心としてかようにいかめしゅう扮装いでたち申した。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
華やかに扮装いでたった鉄騎五百人と軍楽隊との“元宵げんしょうの行列”にまもられて城中の“初春はるうたげ”から退がってきた梁中書りょうちゅうしょの通過を、男女の見物人とともに見送っていたものらしいが
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新介は、馬の稽古の帰りなので、身軽に扮装いでたち、少し汗ばんだ顔をしていた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)