戸隠とがくし)” の例文
戸隠とがくし山で鬼女を退治した平惟茂これもち余吾よご将軍と呼ぶのは、祖父貞盛の養子となって、長幼の順序が十五番目であったからであります。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その頃丁度蒲原家に使はれてゐた戸隠とがくし生れの女中と、やつぱり長野近在で鬼無里きなさといふ村落から来てゐた女中が噴きだして
逃げたい心 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
その後、大峰に三度、葛城かつらぎに二度、高野こうや粉川こがわ金峰山きんぷせん白山はくさん、立山、富士のたけ、伊豆、箱根、信濃の戸隠とがくし、出羽の羽黒など、日本全国くまなく廻り修行した。
追いつつ先の曲者しれものの姿を見ると、太縞ふとじま旅合羽たびがっぱこんのきゃはん、道中師戸隠とがくしの伊兵衛というのはあの野郎です——と釘勘が目で囁いた人相の者にちがいはない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信州しんしゅう戸隠とがくし山麓なる鬼無村きなしむらという僻村へきそんは、避暑地として中々なかなか土地ところである、自分は数年ぜんの夏のこと脚気かっけめ、保養がてらに、数週間、此地ここ逗留とうりゅうしていた事があった。
鬼無菊 (新字新仮名) / 北村四海(著)
むかし、あの寺の大僧正が、信州の戸隠とがくしまで空中を飛んだ時に、屋の棟を、宙へ離れて行く。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その神様の種類からいえば、先ず店の間の天照皇太神宮てんしょうこうたいじんぐうを初めとし、不動明王ふどうみょうおう戸隠とがくし神社、天満宮てんまんぐうえびす大黒だいこく金比羅こんぴら三宝荒神さんぼうこうじん神農しんのう様、弁財天、布袋ほてい、稲荷様等、八百万やおよろずの神々たちが存在された。
戸隠とがくしの山々沈み月高し
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
この六月には洗馬せばから出発して、戸隠とがくしに参詣して七月末に北信に向かったことが、「来目路くめじの橋」というのに詳しく記してある。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
すなわちあれが能登のとの半島、また、うしろに見える山々は、白馬はくば戸隠とがくし妙高みょうこう赤倉あかくら、そして、武田家たけだけしのぎをけずった謙信けんしんの居城春日山かすがやまも、ここよりほど遠からぬ北にあたっておる
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妙高山・焼山・黒姫山くろひめやま皆高嶺にて、信州の飯綱いづな戸隠とがくし、越中の立山まで、万山重なりて其境幽凄ゆうせいなり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
文覚は、まだ十九の頃に、若いもとどりを切って、大峰おおみね葛城かつらぎ粉河こかわ戸隠とがくし、羽黒、そしてまた那智なち千日籠せんにちごもりと、諸山の荒行を踏んできた、その昔の遠藤武者えんどうむしゃ盛遠が成れの果てであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
常にその居所いどころの知れない抜け買い(密貿易)のかしら先生金右衛門せんじょうきんえもんや、有名な道中師戸隠とがくしの伊兵衛、そのほか目ぼしい悪玉が指を折るにいとまもないのですから、その雰囲気をいだだけでも
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)