“息気(いき)” の例文
海気にあって息気(いき)をふき返した人魚のような葉子のかたわらにおいて見ると、身分、閲歴、学殖、年齢などといういかめしい資格が
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
我存在の中心を古手の思想に託して、夫(それ)で自(みずか)ら高しとしていたのだ。が、私の別天地は譬(たと)えば塗盆(ぬりぼん)へ吹懸(ふきか)けた息気(いき)のような物だ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ドル臭しとは黄金(こがね)の力何事をもなし得るものぞと堅く信じ、みやびたる心は少しもなくて、学者、宗教家、文学者、政治家の類(たぐい)を一笑し倒さんと意気込む人の息気(いき)をいう
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
番人も酷(むご)いぞ、頭を壁へ叩付けて置いて、掃溜(はきだめ)へポンと抛込(ほうりこ)んだ。まだ息気(いき)が通(かよ)っていたから、それから一日苦しんでいたけれど、彼犬(あのいぬ)に視(くら)べればおれの方が余程(よッぽど)惨憺(みじめ)だ。
その次第を告げますと、そりゃあなた何だ、シナの人などがこの辺に出て来るとどうもこの辺は息気(いき)(空気の稀薄な事を知らぬゆえ)が悪いもんだから血を吐くということを聞いて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しかもそれをあの女に特有な多恨らしい、冷ややかな、さびしい表現法で、そして息気(いき)づまるような若さと若さとの共鳴の中に……。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
息気(いき)はつまる、冷汗は流れる、顔は※(あか)くなる、如何(いか)にしても言切れぬ。暫(しば)らく無言でいて、更らに出直おして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
といいながら懐から折木(へぎ)に包んだ大福を取出して、その一つをぐちゃぐちゃに押しつぶして息気(いき)のつまるほど妻の口にあてがっていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
尚お未(いま)だに文三の智識で考えて、文三の感情で感じて、文三の息気(いき)で呼吸して、文三を愛しているならば、文三に厭な事はお勢にもまた厭に相違は有るまい。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「愛子は」と口もとまでいいかけて、葉子は恐ろしさに息気(いき)を引いてしまった。倉地の細君(さいくん)の事までいったのはその夜が始めてだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一瞬時なりともこの苦悩この煩悶を解脱(のが)れようと力(つと)め、良(やや)暫(しば)らくの間というものは身動もせず息気(いき)をも吐かず死人の如くに成っていたが、倏忽(たちまち)勃然(むっく)と跳起(はねお)きて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
岡はハンカチで首のまわりをぬぐって、ダブル・カラーの合わせを左の手でくつろげながら少し息気(いき)苦しそうにこう答えた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
驚いて目をポッチリ明き、いたいげな声で悲鳴を揚げながら、四足(そく)を張って藻掻(もが)く中(うち)に、頭から何かで包まれたようで、真暗になる。窮屈で息気(いき)が塞(つま)りそうだから、出ようとするが、出られない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
毛の根は汗ばんだ。その美しい暗緑の瞳(ひとみ)は、涙よりももっと輝く分泌物の中に浮き漂った。軽く開いた唇(くちびる)は熱い息気(いき)のためにかさかさに乾いた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして一時(いっとき)も早くこんな息気(いき)づまるように圧迫して来る二人(ふたり)の間の心のもつれからのがれる術(すべ)はないかと思案していた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
息気(いき)づまるようなけさの光景や、過去のあらゆる回想が、入り乱れて現われて来ても、葉子はそれに対して毛の末ほども心を動かされはしなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
美しく着飾った女中が主人の部屋の襖(ふすま)をあけると、息気(いき)のつまるような強烈な不快な匂が彼れの鼻を強く襲った。そして部屋の中は夏のように暑かった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
幸に母のいる方には後ろ向けに、アグネスに寄り添って臥(ね)ていたから、そのまま息気(いき)を殺して黙っていた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼れはそれに息気(いき)を吹きかけて証書に孔(あな)のあくほど押しつけた。そして渡された一枚を判と一緒に丼の底にしまってしまった。これだけの事で飯の種にありつけるのはありがたい事だった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)