怒髪どはつ)” の例文
旧字:怒髮
どうかふだんの君のやうに、怒髪どはつを天にてうせしめると同時に、内心は君の放つた矢は確かに手答へのあつたことを満足に思つてくれ給へ。
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
老いの涙を垂らしていうしゃ執事の言に、嘘があろうとは思えない。怒髪どはつ天をく、とはまさにこれを耳にしたときの彼の形相といってよい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも書生が放吟し剣舞し、快と呼び壮と呼び、彼らをして怒髪どはつ天をかしむる者は、西郷・雲井らの詩ならざるべからず。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そこに映る自分の姿をみると、例のとおり怒髪どはつてんをつき、髭は鼻の下をがっちりと固めているという勇ましい有様だった。
不思議なる空間断層 (新字新仮名) / 海野十三(著)
聞込みの筋とは何ぞ。血気の先生は、怒髪どはつ天をけり、血気の門人は激昂して、藩政の当途者に迫り、その罪名をたださんとせり。またこれ一種の保安条例のみ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
異教徒席の中からあかかみを立てたふとったたけの高い人が東洋風に形容しましたら正に怒髪どはつ天をくという風で大股おおまたに祭壇に上って行きました。私たちは寛大かんだいに拍手しました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
なんでも出来ると思う、精神一到せいしんいっとう何事なにごとか不成ならざらんというような事を、事実と思っている。意気天をく。怒髪どはつ天をつく。へいとして日月じつげつ云々うんぬんという如き、こういうことばを古人はさかんに用いた。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは真に怒髪どはつ天をくといった形相だった。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
怒髪どはつして退屈男が呼び叫びました。
ことごとく怒髪どはつ天をきました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
怒髪どはつをさかだてて、ふたたび太刀を持ちなおすと、またブーンとかれの小手へあたった第二のつぶて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
成政は、怒髪どはつ天をついて、また、小兵衛をののしった。そして、自身の不覚を、転嫁てんかして
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この宴席からいくらも隔ててない壁の外、木蔭、床下など、ことごとく柴田の手により剣槍飛弓がかくされているのではあるまいか。そしてしつこく秀吉の怒髪どはつを誘っているのではなかろうか。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怒髪どはつてんをつくという形容は火中の彼の形相ぎょうそうそのままであったろうと思われる。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このさまを見ていた張飛は、怒髪どはつ天をつき、馬を走らせて張郃に迫った。張郃は味をしめ、張飛としばしわたり合っては、逃げて誘おうとしたが、今度はこの計略もきかず、追ってこない。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一ぶ一什しじゅうを聞くと、ついに李応も怒髪どはつを逆立てて言った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
費耀は、一目見るや、怒髪どはつをついて、遠くから罵った。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聞くと、黄信は馬の鞍ツボに立って、怒髪どはついた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諸葛匹夫しょかつひっぷ、何者ぞ」と、怒髪どはつをたてて罵った。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)