忽地たちまち)” の例文
一時は腸に収まつて居ても、又何かの拍子で忽地たちまち元に復して了ふので、いくら可愛想に思つても、る事も出来なかつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
頼んで片付んとひとり思案の其折から入來る兩人は別人べつじんならず日頃入魂じゆこんの後家のお定に彼の早乘はやのりの三次成れば長庵忽地たちまちゑみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
天高けれども報尽きては宝殿忽地たちまちに崩れ、魔王の十善、善おほいなればとてくわ窮まれば業苦早くも逼る、人間五十年の石火の如くなるのみならず天上幾万歳も電光に等しかるべし
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
低い狭い石室いしむろの中は、墓場のようにしずまり返っていた。が、寂寞せきばく忽地たちまちに破られた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わが舌人ぜつじんたる任務つとめ忽地たちまちに余をらつし去りて、青雲の上におとしたり。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
若者は何のと金剛力を出したが、流石さすがは若者の元気に忽地たちまち重右衛門は組伏せられ、火のごとき鉄拳てつけんあられとばかりその面上頭上に落下するのであつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
つげれば是さへ喜びて忽地たちまち心地は能く成けり忠兵衞たゞち結納ゆひなふそろへる中に其日は暮行くれゆ明日あすあさに品々を釣臺つりだい積登つみのぼせ我家の記章しるし染拔そめぬきたる大紋付の半纒はんてん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
忽地たちまちにして其の金光の一道は二道となり、三道となり、四道五道となり、奕々灼々として、火龍舞ひ、朱蛇驚き、萬斛の黄金の烘爐を溢れて光燄熾盛、烈々煜いく々たる炎を揚ぐるが如くになると
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
糠雨ぬかあめのおぼつかなき髣髴はうふつの中に、一道の薄い烟が極めて絶え/″\になびいて居て、それが東から吹く風に西へ西へと吹寄せられて、忽地たちまち雲に交つて了ふ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
二種ふたいろくはゆるゆゑ如何程おも癲癇てんかんなりともたゞ一二服を服用すれば忽地たちまち全快なさんことしも沸湯にえゆを注ぐに等き世にも怪有けうなる奇劑きざいなるは是迄夥多あまたの人に用ゐ屡々しば/\功驗こうけん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)