御成おなり)” の例文
店を出て御成おなり街道をずんずん須田町方面へと歩いて見た、町並みは少し変っているが、口入屋があったり、黒焼屋があったり
享保きょうほう十一年に八代将軍吉宗は小金ヶ原で狩をしている。やはりその年のことであるというが、将軍の隅田川御成おなりがあった。
鐘ヶ淵 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
太閤殿下御成おなりのために御殿を造ることになりまして、鍛冶かじや番匠を召し集め、秋の月見に間に合うように夜を日に継いで工事を急いでおりましたが
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
師質心せきたるさまして参議君の御成おなりぞと大声にいへるに驚きて、うちよりししじものひざ折ふせながらはひいでぬ
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
この二つの寺へ将軍が参詣される、いわゆる『御成おなり』の日には、その沿道の屋敷々々は最も取締を厳重にし、或る時間内は全く火を焚く事さえなかった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
自動車は御成おなり街道の電車の右側の坦々たんたんたる道を、速力を加えて疾駆しっくしていた。万世橋迄は、もう三町もなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
刺青ほりものの膚にたきなす汗を振りとばして、車坂くるまざか山下やましたへぶっつけ御成おなり街道から筋かえ御門へ抜けて八つじはら
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それなら宜い鹽梅で、笹野の旦那(與力筆頭笹野新三郎)は明日の御成おなりの御檢分で、傳通院に御出役になつて居ります。先刻途中でお目にかゝつて申上げると、直ぐ平次を
代助はそれから夜の二時頃ひろ御成おなり街道をとほつて、深夜しんや鉄軌レールが、くらなか真直まつすぐわたつてゐるうへを、たつた一人ひとり上野うへのもりて、さうして電燈に照らされたはななか這入はいつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ところで、御成おなり街道の日本亭の楽屋で見習いになってマゴマゴしていると、三日目です。二人三人休席の者があって、前座が二度上がりをしましたが、いくらやってもあとが来ません。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
宮様の今御成おなりとや扇置く
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
空模様が険呑けんのんであったのに、道具を肩にして出かけると、はたして御成おなり街道から五軒町の裏を妻恋坂つまこいざかにのぼりかけた時分に、夕立の空からポツリポツリ。
御成おなり街道へさしかかる頃から、雷鳴と電光が強くなって来たので、臆病な私は用心して眼鏡めがねをはずした。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
押しつけるような閑静のどかのなかを、直ぐ前の御成おなり街道をゆく鳥追いの唄三味線が、この、まさに降らんとする血の雨も知らず、正月はる得顔えがおに、呑気のんきに聞えて来ていた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
代助はそれから夜の二時頃広い御成おなり街道を通って、深夜の鉄軌レールが、暗い中を真直に渡っている上を、たった一人上野の森まで来て、そうして電燈に照らされた花の中に這入った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「野々宮さんに御ひになつてから、心細く御成おなりになつたの」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ここに藩主の御成おなりがある。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)