御情おんなさけ)” の例文
今、この瞳に宿れるしずくは、母君の御情おんなさけの露を取次ぎ参らする、したたりぞ、とたもとを傾け、差寄せて、差俯さしうつむき、はらはらと落涙して
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
元より御憎悪強おんにくしみつよわたくしにはさふらへども、何卒なにとぞこれは前非を悔いて自害いたし候一箇ひとりあはれなる女の、御前様おんまへさま見懸みかけての遺言ゆいごんとも思召おぼしめし、せめて一通ひととほ御判読ごはんどく被下候くだされさふらはば、未来までの御情おんなさけ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いぬる日烏円うばたまめに、無態の恋慕しかけられて、すでかれつめに掛り、絶えなんとせし玉の緒を、黄金ぬしの御情おんなさけにて、不思議につなぎ候ひしが。かの時わがおっと烏円うばたまのために、非業の死をば遂げ給ひ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
わらはこそは中宮の曹司横笛と申すもの、隨意まゝならぬ世の義理に隔てられ、世にも厚き御情おんなさけに心にもなきつれなき事の數々かず/\、只今の御身の上と聞きはべりては、悲しさくるしさ、女子をなごの狹き胸一つには納め得ず
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
すゝみ申樣天一坊樣御身分の儀は只今たゞいまの書付にてくはしく御承知ならんが御腹の儀御不審ふしんもつともに存候されば拙者より委細ゐさい申上べしそもたう將軍樣紀州きしう和歌山わかやま加納將監方かなふしやうげんかたに御部屋住にて渡らせ給ふせつ將監しやうげんさい召使めしつか腰元こしもとさはと申婦女ふぢよ上樣うへさま御情おんなさけかけさせられ御胤を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)