彫琢ちょうたく)” の例文
色鍋島の絢爛けんらん艶美えんび彫琢ちょうたくと若々しい光彩のみなぎった名品が、この老いほうけた久米一の指から生れて、他の若い細工人さいくにんの手からは作り得なかった。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
杜甫とほの詩は、彫琢ちょうたくのみのあとが覗えるけれども、一方には思い切って、背を向けて立ち去る者の、あの爽やかさがある。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
隅々まで行き届かざるなき彫琢ちょうたくの美しさは大したもので、現にこの楽団を率いてロンドンを訪れた時は、そのベートーヴェンの指揮振りの鮮かさには
それどころか、たとえ小粒でも適当な形に加工彫琢ちょうたくしたものは燦然さんぜんとして遠くからでも「える」のである。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
無論記憶を助けるための手控てびかえであるから、ごうも文章らしいところはない。字句を修飾したり、彫琢ちょうたくしたりした痕跡は薬にしたくも見当らぬ。しかしそれが非常に面白い。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
六閑堂は甚質素にして閑雅かんがの趣があった。佐藤一斎の記に、「黝堊ゆうあくテ、麤埴そしょくヲ用ヒ彫琢ちょうたくヲ去ツテ素樸そぼくニ従フ。ソノ清迥閑曠せいけいかんこうノ趣、一ニ山人逸士ノ棲止スル所ニ類ス。」
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まげにさしてあったさんらんたる美光の品も、それにゆかりのある、泰西たいせい名工の彫琢ちょうたく白金彫はっきんぼり聖母せいぼマリヤのこうがいなのであった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何ら苦渋のあとがなく、明朗、快適、清純、華麗、美しすぎるほどの美しさと、整いすぎるほどの彫琢ちょうたくとを持っているのは、まことにこの境遇から由来する影響と言ってよい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
小説は自然を彫琢ちょうたくする。自然その物は小説にはならぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
城は本丸ほんまる、二ノ丸、三ノ丸にわかれ、中央ちゅうおうに八そう天主閣てんしゅかくそびえていた、二じゅう以下いか惣塗そうぬりごめ、五じゅうには廻廊かいろうをめぐらし、勾欄こうらんには鳳龍ほうりゅう彫琢ちょうたく、千じょうじきには七宝しっぽうはしら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この人の指揮振りは、一言にして尽せば、彫琢ちょうたくの極で、或る意味ではかどのとれたものである。
そこにはもはや斧鉞ふえつの跡もなく、彫琢ちょうたくの痕も止めない。かつてこの地上に生れた薄倖なる大天才の死に行く魂の、最後の大燃焼であり、真にこれこそは天衣無縫の芸術であると言っていい。
それは太守たいしゅも、刈屋頼母かりやたのもも、まったく望みを絶っていた、増長天王ぞうちょうてんのう陶器像すえものぞう。しかも一点のきずなく彫琢ちょうたく巧緻こうち染付そめつけ豪華ごうか絢麗けんれいなこと、大川内おおかわちの山、開いてこのかた、かつて見ない色鍋島いろなべしまの神品。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)