張番はりばん)” の例文
「なあ、波越。なんだってこんな真夜半まよなか蝋人形ろうにんぎょう張番はりばんをさせるのだろう。羅門塔十郎らもんとうじゅうろうも時々、奇功にはやって、分らない指図をするぜ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうは言いながらも、ともかくもそれを実験するために、父はひと晩眠らずに張番はりばんしていた。それには八月だから都合がいい。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、彼の目は自動車にそそがれるよりも、警察署の表口と裏口あたりにそそがれる方がひんぱんであった。どうしても張番はりばんをしているとしか見えない。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
みんなは元の小門へ出て、学生たちの張番はりばんしているのと一緒になり、無事に古城から逃れ出ることが出来た。
人を可哀かわいいとも思わなければ、憎いとも思わないでいるのね。ねずみの穴の前に張番はりばんをしているこうづるのように動かずにいるのね。お前さんには自分の獲ものを引きずり出すことも出来ない。
殿様の大切にして入らっしゃるものをむしゃ/\喰っていますから、わたくしは夜通し此処こゝ張番はりばんをしています、此所こゝに下駄が脱いでありますから、何でも人間が這入ったに違いはありません
一日有隣舎の諸生が益斎先生の蔵書を庭上にさらして、春濤にその張番はりばんをさせたことがあった。春濤は番をしながらもしきりに詩を苦吟していたので、驟雨しゅううそそぎ来るのにも気がつかなかった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
最初の二晩はおれも十一時ごろまで張番はりばんをしたが、赤シャツのかげも見えない。三日目には九時から十時半まで覗いたがやはり駄目だ。駄目をんで夜なかに下宿へ帰るほど馬鹿気た事はない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、表へ出て見ると湯屋の角の交番で飛白かすりの羽織の尾行が張番はりばんをしていた。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
石子、渡辺両刑事はじっと外に張番はりばんをしていた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
おい、お前、ここで張番はりばん
でたらめ経 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
で、その怪しい死体を一室にかつぎ込んで、今井副官殿と、安村中尉殿と、本人の向田大尉殿とが厳重に張番はりばんして、ともかくも夜の明けるのを待っていたのです。
火薬庫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
誰か外から、こっちをうかがっている者はいないかと思ったのであるが、外には、張番はりばんの水夫が二人、とつぜん現れた帆村の方を、びっくりしてふりかえったばかりだった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
外にまで張番はりばんを付けておくとは、まるでこの万太郎という者を囚人めしゅうどあつかいだ。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幸徳秋水のいへまへうしろに巡査が二三人づゝ昼夜張番はりばんをしてゐる。一時は天幕てんとを張つて、其なかからねらつてゐた。秋水が外出すると、巡査があとを付ける。万一見失ひでもしやうものなら非常な事件になる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「なア、三坊、お祖父さんと一緒に、日本の敵のやってくるのを張番はりばんしてやろうな」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
窟の入口には落葉を焚いて、一人の警部と二人の巡査が張番はりばんしていた。重太郎や𤢖が何時なんどき旧巣ふるすへ帰って来るかも知れぬので、過日来かじつらい昼夜交代で網を張っているのである。塚田巡査は挨拶した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
店先で張番はりばんしていた王婆のやつが、何としても寄せつけない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ついでに、この牝豚めすぶた張番はりばんもお願いしますよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)