弥々いよいよ)” の例文
旧字:彌々
哲也の思いは弥々いよいよ増した。とうとう我慢し切れなくなって父親の鉄平に「是非音絵を貰って下さい」とせがんだ。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
いとまともならば弥々いよいよ病人の伯父に心配をかけ、痩世帯やせぜたいに一日の厄介も気の毒なり、その内にはと手紙ばかりをりて、身は此処ここに心ならずも日を送りける。
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
弥々いよいよ戦争が始まると云うのに、この城の中に来て悠々と弁当などくって居られるものか、始まろうと云う気振けぶりが見えれば何処どこかへぐに逃出して行きます。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
人々の希望が日を逐うてうしおの如く高まると共に、上飯台の連中や幹部連の凄惨な顔色は弥々いよいよ深くなる。只でも油断のない眼は耀ひかりを増し、耳は益々尖って来る。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
わかきより日に弥陀仏を念じ、行年四十以後、其志弥々いよいよはげしく、口に名号を唱え、心に相好そうごうを観じ、行住坐臥ざが、暫くも忘れず、造次顛沛てんぱいも必ず是に於てす、の堂舎塔廟とうびょう
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ただ気が付かずに迷ってるだけだ。聖人は赤児の如しという言葉が、其に幾らか似た事情で、かねて成り度いと望んでた聖人に弥々いよいよ成って見れば、やはり子供の心持に還る。
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
我に便よき説をも案じ出して、かかる折なほ独善の道を守らば弥々いよいよ道にそむかんなど自らも思ひ人にもいひて節を折るべきに、さはなくてあくまでも道を守りてその節をへず
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
此日隣のは弥々いよいよ浅ましい姿になって其惨状は筆にも紙にも尽されぬ。一度光景ようすうかがおうとして、ヒョッと眼をいて視て、慄然ぞっとした。もう顔の痕迹あとかたもない。骨を離れて流れて了ったのだ。
我が思ふ事に一銭の融通もかなふまじく、いはば宝の蔵の番人にて終るべき身の、気に入らぬ妻までとは弥々いよいよの重荷なり、うき世に義理といふしがらみのなくば
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
アリャお勢だ……弥々いよいよ心変りがしたならしたと云うがいい、切れてやらんとは云わん。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「オイオイ、夫れよりや早引けの掃除ッてなア、弥々いよいよ明日になったんだぜ」
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
のみならず平日の心得方よろしく暮し向万事質素で、門弟の引立方等が深切に行届いている段が藩公の御耳に達し、奇特に思召おぼしめされ、御目録の通り下し賜わり、弥々いよいよ出精せよという有難きお言葉である
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「イヤ、まず私の聞く事に返答して下さい。弥々いよいよ本田が気に入ッたと云うんですか」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一人で帰りますと小さく成るに、こりやこわい事は無い、其方そちらうちまで送る分の事、心配するなと微笑を含んでつむりでらるるに弥々いよいよちぢみて、喧嘩をしたと言ふと親父とつさんに叱かられます
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「その一言いちごんをお忘れでないよ。お前が弥々いよいよその気なら慈母さんも了簡が有るから」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
十九世紀で暴威を逞くした思索の奴隷になっていたんで、それを弥々いよいよ脱却する機会に近づいているらしく見える。新理想とか何とか云い出すな、まだレフレクションに捉われてる証拠さ。
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私にゃ弥々いよいよ真劒にゃなれない。
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)