引手繰ひったく)” の例文
かまびすしくおの家号やごう呼立よびたてる、中にもはげしいのは、素早すばやく手荷物を引手繰ひったくって、へい難有ありがとさまで、をくらわす、頭痛持は血が上るほどこらえ切れないのが
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分で自分を思いやると、急に胸が込上げて来て、涙は醜い顔を流れるのでした。やがて、思いついたように馬の傍へ馳寄かけよって、力任せに手綱を引手繰ひったくりましたんです。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
尾根に出ると風がワアッとからみつく、そして油断した人の体から帽子手拭其他何でも引手繰ひったくるようにさらって行く。白い霧の群れが老女の乱れ髪のようにもつれ合って、目の前をすうと流れる。
「金さん!」と女は引手繰ひったくるように言って
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
おぬい (手紙を引手繰ひったくり披く)
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
人も無げに笑う手から、引手繰ひったくるように切符を取られて、はっと駅夫の顔を見て、きょとんと生真面目きまじめ
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一人いていた柿を引手繰ひったくる、と仕切にひじを立てて、あごを、新高しんたかに居るどこかの島田まげの上に突出して、丸噛まるかじりに、ぼりぼりとくいかきながら、(めちまえ、)と舞台へわめく。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
安値やすいものだ。……私は、その言い値に買おうと思って、声を掛けようとしたが、すきがない。女が手を離すのと、笊を引手繰ひったくるのと一所で、古女房はすたすたと土間へ入ってく。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
退すさって廊下へ手をくと、(あやまるに及ばん、よく、考えて、何と計らうべきか、そこへくい附いて分別して返答せい。……石になるまで、わりゃ動くな。)とまた柿を引手繰ひったくって
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうすると、手帳へこんやおまえのとこへとまりにゆくよ、と、あの、これを書きましたから、私引手繰ひったくって、脱いだ筒袖と前垂とをかかえるか抱えないに、うちけ出して帰ったんです。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、うっかりらしく手に持った女の濡手拭を、引手繰ひったくるようにぐいと取った。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引手繰ひったくるや否や、ふとっているから、はだかった胸へわきの下まで突込つっこんだ、もじゃもじゃした胸毛も、腋毛わきげも、うつくしい、なさけない、浅間しい、可哀相かわいそうおんなみくたにして、捻込ねじこんだように見えて
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)