巷間こうかん)” の例文
「フム、義伝公。蜂須賀至鎮よししげとおおせられて、非常に英俊豪邁えいしゅんごうまいなお方、巷間こうかんの伝えによれば、眼点がんてんひとみが二ツあったとか承る」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまはかえって、このような巷間こうかん無名の民衆たちが、正論を吐いている時代である。指導者たちは、ただあわを食って右往左往しているばかりだ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
こないだふと取り出して見たら割れていたのである。こういう現象は巷間こうかんではその持主に観音さまの加護の手がはたらいたということになっている。
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
巷間こうかん流布るふされている俗謡は吉良郷民の心理をふうしたものであろう。まったく仕様がない。メイファーズである。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
巷間こうかんの板行物や世評を聞いているのではない、改めて申すが、柳沢侯は老中首席であって、大老ではないのだ」
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
日々の用具であるから、稀有けうのものではなく、いつも巷間こうかんに準備される。こぼたれるとも更に同じものがそれに代る。それ故生産は多量でありまた廉価である。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
巷間こうかんに看板をかけている未亡人のお師匠さん達よりも一段上の免状だそうだが、商売的には教えない。極く懇意の人だけの面倒を見る。重役の娘さんが習いに来ていたこともあった。
四十不惑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あの未曾有みぞう超々大戦果ちょうちょうだいせんかこそ、金博士が日本軍に対し、博士の発明になる驚異きょうい兵器を融通ゆうずうされたる結果であろうという巷間こうかんの評判ですが、どうですそれに違いないと一言いってください
日本の巷間こうかんに伝うる轆轤首(ロクロクビ)もしくは抜け首と称せらるる怪談なり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
きのこのさせる業と見るよりほかにみようはないが、それにしても、一応食物を分析した上でなければ科学的の立証はできないが、巷間こうかんの伝説に従えば、左様の例は決して無いことではない。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
巷間こうかんの噂によれば、R・L・S・は本島より追放さるべしと。英国領事がダウニング街に訓令を請いたる由。余の存在は島内の治安に害ありとや? 余も亦偉大なる政治的人物にあらずや。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
またみだりに予の動くことは、巷間こうかんいたずらに噂と新聞紙上をにぎわせて、そなたのためにあらぬ揣摩しま臆測を増させるのみであろう。よってすべてを、この書信に託する。この書信を、予と語るものと思われよ。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
どうした誤りかまことしやかに巷間こうかんに云い伝えられて、それなども、彼の驕慢きょうまんの一つに今以て云われているが、事実は、甚だ違っているのであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
巷間こうかん無頼ぶらいの徒さ」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
巷間こうかん、その当時の隠れない取り沙汰では、時の風流天子徽宗きそうは、禁中からくるわまで地下道をってしげしげ通っていたものと言い伝えられている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例えば、閣老の土井利勝としかつは、自身、謀首ぼうしゅとなったような顔して、列藩の諸侯へ、謀叛状むほんじょうを送り、その手応えで、諸侯のはらを打診したという——奇怪なうわささえ巷間こうかんに洩れていた。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰の口からともなく巷間こうかんにひろがって、尾張は新将軍の令に伏すまいなどというような事さえ吉宗の耳にはいっておりますので、彼は万太郎の素行も、昔からの性格とは知りつつ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、巷間こうかんの伝えるところでは、信長殿というお方は、御気質峻烈しゅんれつ、敵といえば、捕虜降参人と対しても、仮借かしゃくはあらで、打首、本領追い払いなど、随分おきびしいとのことである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
巷間こうかん、噂まちまちで、変な揣摩臆測しまおくそくも行われているからだった。しかし今、信長のあっさりした返辞やこだわりのない姿を見ては、ちまたの取沙汰はすべて無用な思いわずらいに過ぎないものと否定された。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
巷間こうかんには、近く武蔵と細川家の巌流とが、一戦の約を果すとか、もっぱら噂もあって、武蔵が京あたりにいるらしいことも察したが、何しろ、合せる顔もないとして、権之助はそう聞くほどさらに
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういう話さえ巷間こうかんに伝わっている——
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)