屠殺とさつ)” の例文
それに王禅寺の犬は、なる程、狂犬になつたのだ、けれども、もう一週間も十日も前に、そのために屠殺とさつされた。その時、お絹が
いつでも、屠殺とさつされる前の不安な状態が胸を締めつける。金の百円も持って帰ったのなら、こんな白々しい人達ではあるまいと思える。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
おそろしい屠殺とさつの行われたその瞬間の後、何ともいえないしんとした影が野をおおった。おもてを向けるに堪えないように、太陽にも雲がかかっていた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屠殺とさつしてから二、三日目にはモー使ってもようございます。長崎辺で使うような小豚は二日目から三日位が食べ頃ですし去勢した豚は二日目が食べ頃です。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
蝶、蜻蛉とんぼあり蚯蚓みみず、目を遮るに任せてこれを屠殺とさつしたが、馴るるに従うて生類を捕獲するすさみに熟して、蝙蝠こうもりなどは一たび干棹ほしざおふるえば、立処たちどころに落ちたのである。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
屠殺とさつに用いるのだそうだ。肉屋の亭主は沈着おちついた調子で、以前には太いくぎ形状かたちしたのを用いたが、この管状の方が丈夫で、打撃に力が入ることなどを私に説明ときあかした。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人は右へ行ったり、左へ行ったり、進んだり、後に引返したりした。吠声はますます激しくなった。犬はいらだちのあまり息もつまるばかりに、屠殺とさつの叫び声をあげていた。
六月十五日の夜の十一時頃、モネェという屠殺とさつ人とルトゥルという医者が「ロッジ」のそばを通ると、台所の煙突からひどく悪臭のある煙が出ているので、不審をおこして田園看守に注意した。
青髯二百八十三人の妻 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかし、あの火術弩かじゅつどつる橐荑木ビクスクラエなら、僕は前史植物学で、今世紀最大の発見をしたことになるのだよ。ねえ熊城君、一七五三年にベーリング島の附近で、海牛の最後の種類が屠殺とさつされたんだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その湖の岸の北側には屠殺とさつ場があって、南側には墓地があった。
死屍を食う男 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
真偽をたしかめもせずに、逆上して屠殺とさつ者を買って出たのだ
屠殺とさつしたときの汚れでさあ。じつあ昨晩、管営かんえいさまと差撥さはつさんの官邸でお客のご招待があったんで、牛やら羊やらの屠殺をいいつけられたものでございますから
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
憎悪し屠殺とさつするのほかはなかった……。ましてその侮辱者は、クリストフがだれよりももっとも軽蔑けいべつしてる男ではなかったか! そして偶然にも、その晩に、二人は顔を合わした。
雲の上にぶらさがっているあの牛は、二三日の内には屠殺とさつされてしまって、紫の印を押されるはずだ。何を考えているのかしら……。船着場には古綿のような牛の群が唸っていた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
と、躍りかかって、檻車の鉄扉を開き、ひとりひとりつかみ出して、猛獣を屠殺とさつするごとく斬り殺した。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かごにいっぱいつめ込まれてる牝鶏めんどり、——遠くには、屠殺とさつされてる豚の鳴き声、——料理場のまな板の上には、臓腑ぞうふを抜き取られてる魚、……クリストフはもうそれらの光景に堪え得なかった。
父の横浜移住はそれからで、その頃でもまだ、食肉を屠殺とさつするには、屠殺場の四方に笹竹を立て、シメ縄を張って、神主かんぬしにのりとを上げて貰ったりしたそうである。
首にするも、捕虜にするも、将軍義昭よしあきの運命は、完全にもう味方にある。信長の将士は、やがて屠殺とさつにかかる高貴な猛獣を、しばしおりの外から見ている感じだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何進はもと牛や豚を屠殺とさつして業としている者であったが、彼の妹が、洛陽にも稀な美人であったので、貴人の娘となって宮廷に入り、帝のたねをやどして弁皇子べんおうじを生んだ。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(領地が何か? 位階が何か。——あさましやおれはこれで釣られて、一生を屠殺とさつで送ってきた)
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天蔵の一味は、よいことにして、博奕場ばくちばを開いたり、神社の境内で、牛や鶏を屠殺とさつして喰ったりしていたらしい。また、やしきには、女をあつめ、神社の拝殿は、武器の隠匿場いんとくばにしていたという。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)