寛闊かんかつ)” の例文
しかもこんな戦争の最中にエリザベス朝の生活がそのまま寛闊かんかつに繰りひろげられていようとはさすがのわたしも想像さえもしませんでした。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
至ってお気持の寛闊かんかつなお方なのだから、もう一歩毛利方において譲歩を示すならば、きっと和談のととのわぬはずはない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある者は軽蔑をたたえているかのように、またある者は好奇の心を一杯に現して、しかも寛闊かんかつな外衣の下から盛り上っている隆々たる筋肉の見事さ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
汗と埃と、すすと泥と、そのうえ血と涙とに汚れた安右衛門の顔は、まことに、日頃の寛闊かんかつな旦那振りなどは、薬にしたくも残ってはいなかったのです。
漣は根が洒落しゃらくである上に寛闊かんかつに育ち、スッキリとさばけた中に何処どことなく気品があった。殊に応酬に巧みで機智に富み、誰とでも隔てなく交際し誰にでもしたしまれた。
埠頭ふとうから停車場へ向かう途中で寛闊かんかつな日本服を着て素足で歩いている人々を見た時には、永い間カラーやカフスで責めつけられていた旅の緊張が急に解けるような気がしたが
電車と風呂 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
氏と約した通り氏にい氏が仮りにも知れる婦人の中より選び信じ懐かしんでれた自分が、鎌倉時代よりもずっと明るく寛闊かんかつに健康になった心象の幾分かを氏に投じ得たなら
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
薄色縮緬の頭巾ずきん目深まぶかに、唐草模様の肩掛ショオルて、三枚がさね衣服きものすそ寛闊かんかつに蹴開きながら、と屑屋の身近にきたり、冷然として、既に見えざる車を目送しつつ、物凄ものすごえみを漏らせり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
当時は一般の風俗もおうよう寛闊かんかつであったが、彼女たちは山間自然の境地に育って、その性情は野趣に富み奔放不拘束な点が多かった。彼女たちは絶え間なしに喰べ、好んで情事を話題にした。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
手づくりの足袋たび寛闊かんかつにはきよくて
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
充ち足りたような寛闊かんかつさもすっかり消失して、学生時代のあの暗ぼったい皮肉なようすにかえっていました。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
少しく派手ではあるが寛闊かんかつな様子合いから見ても、銀簪をふるって、女を殺すような人体じんていとは思われません。
かついやしくも前途に平生口にする大抱負を有するなら努めて寛闊かんかつなる襟度きんどを養わねばならない
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
かの女の神経は、うそと知りつつ、自由で寛闊かんかつになり、そしてわくわくとのぼせて行った。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
割膝にわが小さき体引挟ひっぱさみて、渋面つくるが可笑おかしとて、しばしば血を吸いて、小親来て、わびて、引放つまでは執念しゅうねく放たざりし寛闊かんかつなる笑声の、はじめは恐しかりしが、はては懐しくなりて
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
デップリした恰幅かっぷくで、柔和な眉、少し鋭い智恵の輝きを思わせる眼、二重あご、大町人らしい寛闊かんかつなうちにも、何となく商機にさとい人柄を思わせるのが、地味なつむぎを着て
この寛闊かんかつな気象は富有な旦那の時代が去って浅草生活をするようになってからもせないで、画はやはり風流としてたのしんでいた、画を売って糊口ここうする考は少しもなかった。
そのころ流行はやった風俗ですが、一管の尺八を腰に差して、寛闊かんかつな懐ろ手、六法を踏む恰好で歩くのは花道から出て来る花川戸の助六や御所の五郎蔵と通うものがあります。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
お勢の妖艶ようえんな顔も、さすがにあお引緊ひきしまって、日頃の寛闊かんかつさは微塵みじんもありません。
平次と久三郎へ等分に挨拶したのは、三十前後の恰幅かっぷくの良い男、殺されたお米には遠縁に当るそうで、居候といっても、何となく寛闊かんかつな感じのする態度が、考えようでは横着らしくもあります。