)” の例文
それから「鴉がむそうだから、麺麭パンをやりたい」とねだる。女は静かに「あの鴉は何にもたべたがっていやしません」と云う。小供は「なぜ」と聞く。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
書院の障子いちめんにその月光が青白くさんさんとふりそそいで、ぞおっと襟首えりくび立つような夜だった。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
夜になって辺りが闇にとざされる頃から青白い海霧ガスむと立てこむ夜中にかけて墨のような闇の海を何処どこをなにしにほっつき廻るのか家人が気を揉んで注意を
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「脅かすわけぢやありませんが、女はどうして斯うもお化けが嫌ひなんでせう、お、ぶ」
そのとき、急に体じゅうざわざわとむけがした。これも「魔に狙われた」のだった。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
その声は、この夏だというのに、想像も出来ぬほど、むとしたしわがれた声だった。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
尺八を吹く声も聞えます。角の玉突場でかちかちという音がむそうに聞えます。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
少年の屍体は、なんだかむと見えた。
人体解剖を看るの記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おおぶ。もうあわせじゃのう、おっさん」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「少しむくなつた様ですから、兎に角立ちませう。冷えると毒だ。然し気分はもう悉皆すつかりなほりましたか」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この歩きまわって、ねとねとと汗の浮く真夏の夜だというのに、むそうに肩をすぼめて、ぶるっと身顫みぶるいをすると、恰度ちょうど眼の前に来た分れみちのところで、鷺太郎から渡されたカンテラを、怖る怖る
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
ふすま蕪村ぶそんの筆である。黒い柳を濃く薄く、遠近おちこちとかいて、むそうな漁夫がかさかたぶけて土手の上を通る。とこには海中文殊かいちゅうもんじゅじくかかっている。き残した線香が暗い方でいまだににおっている。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)