妄動もうどう)” の例文
御着の城も個々の運命もささえてゆけないと思いつめている老臣たちの頑固な旧観念と妄動もうどうあわれまずにいられなかったのである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「近年幕吏妄動もうどうし、かつ君臣の名義大いに混乱致し、はなはだしきは徳川幕府あるを知りて、天皇のあるを知らずに至り候——」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
が、藤十郎は、見物のたわいもない妄動もうどうの裡に、深いもっともな理由のあるのを、看取しない訳には行かなかったのである。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
今後双方から信義を守って相交わるについては、こんな妄動もうどうの所為のないようきっと申し渡して置く。今後これらの事件はすべて朝廷で引き受ける。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
明朝は伊達少将の手を経て朝旨ちょうしを伺うことになるだろう。いずれも軽挙妄動もうどうすることなく、何分の御沙汰を待たれいと云うのである。九人は謹んで承服した。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それが売れない山と同じに先を越されて罐詰かんづめになっており、下手をすれば親類合議で準禁治産という手もあり、妄動もうどうして叔父たちの係蹄わなにかからないとも限らないのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そう云ってきびしく妄動もうどうを禁じたので、あやうく事は起こらずに済んだ。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それにてもなお憤りが納まらずば将軍家をしいし奉ればよいのじゃ。さるを故なき感情に激して、国家をあやうきに導くごとき妄動もうどうするとは何事かっ。閣老安藤対馬守、かように申したと天下に声明せい
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
「暴力妄動もうどうはよろしくない。かえって、山門の威厳を失墜することになろう。よろしく、合法的に、邪教のうえに天譴てんけんをくだすべきであろう」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、彼の律義りちぎな人格は、咄嗟とっさに彼の慾情の妄動もうどうをきっぱりと、制し得たのである。藤十郎は、宗山清兵衛の事を考えた。また、貞淑と云ううわさの高いお梶の事を考えた。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と言っても彼も妄動もうどうのいけないことに、だんだん気がついていた。一度心が揺れはじめると、容易には揺れまないので、そういう時は、部屋にじっとしているに限るのだった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
妄動もうどうは内紛のもとだからきっと慎め、と厳重に戒告されたのであった。
初夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「このさい妄動もうどうは禁物だ。ヘタな藪蛇やぶへびは、逆に宋子そうし(宋江)の落命を早めてしまおう。この計略は入念に入念を要する」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敵国の地深くへ進み出ながら、彼がなお自ら軍を引っげて戦わずに、ひたすら魏軍の妄動もうどうを誘う消極戦法を固持している理由は、実にその兵力装備の差にあった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妄動もうどうするな、うかつに動くと危ないぞ、動かぬ切れものへさわってきて、われから命を落すまい。無益な殺傷沙汰はしたくないと思う、で、話がある! 静かにせい」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(——妄動もうどう何かせん。観ずれば死生は一瞬の風裡ふうり。悠久は天にあり、死を帰すも天、生をたくすも天)
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——が、お互いに、妄動もうどうは慎みましょう。司馬懿につけ込まれるおそれがありますから」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、自身の場合だけを例外なものに見、しかも戦が柴田側の勝利に帰すことまでを、いて信じていたのである。驚くべき妄動もうどうというほかはない。しかし、後では彼も煩悶はんもんした。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わが子の愛をおぼし給わば、益なき妄動もうどうをやめ給え。年寄の冷水ひやみず、夢、妄動をやめたまえ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同時につい先頃、織田軍によって、武田そのものをも跡かたもなく攻めつぶした甲州方面でも、物情騒然ぶつじょうそうぜん、蜂の巣をついたような妄動もうどうがあらわれ出した。固守、攻略、合流、分離の争乱が随所に起った。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、かたく部下の妄動もうどうをいましめ、封鎖の手をゆるめなかった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あらゆる妄動もうどうと醜態を世に暴露ばくろしてしまった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、かえって人びとの妄動もうどうをたしなめた。
貞昌さだまさは、兵の妄動もうどういましめた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)