奸佞かんねい)” の例文
切に願ふ、朝廷此情実をりやうとし給ひ、みことのりを下して朝野の直言を求め、奸佞かんねいを駆逐し、忠正を登庸し、邪説を破り、大体をあきらかにし給はむことを。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
(父子、世嗣よつぎの問題にまで、才気をさし挟むはいかに才ありとも、奸佞かんねいの臣たるをまぬかれぬ。いつかは、ちゅうすべきぞ)
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「凶暴を極め、惨虐を極め」た「奸佞かんねいなる」犯罪を書き立てたのみで、あの事件が第二のクリップン事件であり、マゾヒストの殺人であるという点に
この不幸をきっかけにして、土部三斎や、横山、浜川と言ったような、奸佞かんねい暴慾な武士たちは、だんだんに、雪之丞の計略のわなに陥ちてゆくであろう。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
安く送らん事最々いと/\容易よういわざながら忠相ぬしつら/\かれを見るに貴介きかい公子こうし落胤らくいん似氣にげなく奸佞かんねい面に顯れ居ればこゝろゆるせぬ曲者くせものなりと夫が成立なりたちよりの事柄を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
曖昧あいまいな理屈を立てた後、利己心の一見道理あるらしい狡猾こうかつな論法を用いた後、憤った本心から「奸佞かんねいの徒、みじめなる奴、」と耳に叫ばれるのを彼が聞いたのも、幾度であったろう。
叔父さんを無事に連れ帰るのは誰でもいいが、このままにしておいては奸佞かんねい邪智の秋山男爵だ、この上如何なる悪計を持って我らを苦しめ、かつ鳩のような月子さんをもてあそぶか知れない。
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
彼女はその点を正面から攻撃しはしなかった。彼女は奸佞かんねいな尋ね方をした。
ピストルでもあったなら、躊躇ちゅうちょせずドカンドカンと射殺してしまいたい気持であった。犬は、私にそのような、外面如菩薩げめんにょぼさつ内心如夜叉ないしんにょやしゃ的の奸佞かんねいの害心があるとも知らず、どこまでもついてくる。
狡猾かうくわつ奸佞かんねいなるものの世に珍重せらるべきを知りぬ、「ブロンテ」の小説を読んで人に感応あることを知りぬ、けだし小説に境遇を叙するものあり、品性を写すものあり、心理上の解剖を試むるものあり
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
文雅風流の道に傾きすぎるきらいはあるがまず聖明な君と申しあげてよい。ただ困るのはその君側のかんだ。奸佞かんねい侯公こうこうや悪臣のみが政治まつりごとを自由にしている
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
王の奸佞かんねい邪智を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。そうして、私は殺される。若い時から名誉を守れ。さらば、ふるさと。若いメロスは、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。
走れメロス (新字新仮名) / 太宰治(著)
古語こごに曰く君子はあざむくべししゆべからずとはむべなるかなすべ奸佞かんねいの者に欺かるゝはおのれが心の正直しやうぢきより欺かさるゝものなりじつに其人にしてなす而已のみ其のあざむく者は論ずべからず其さい不才ふさいに依るにあらざるか爰に伊勢屋五兵衞の養子千太郎は父の病中を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かくては、慄然りつぜん、日ごろの不安を、いやが上にも募らせた吉保は、奸佞かんねいの本質をあらわして、紋太夫とはかり、にわかに老公へ対して、ある決意をかためたらしく存ぜられます
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここらが彼の奸佞かんねいなところである。果たして、奉行の蔡九さいきゅうは、ご機嫌すこぶる斜めであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奸佞かんねい讒訴ざんそ賄賂わいろ、警職の乱用、司法の私権化など、あらゆる悪が横行していたので、その弊風へいふうは、州や県の地方末端の行政面にも、そのまま醜悪を大なり小なりつつんでいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)