女竹めだけ)” の例文
右の方は女竹めだけが二三十本立っている下に、小さい石燈籠いしどうろうの据えてある小庭になっていて、左の方に茶室まがいの四畳半があるのである。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
平馬は鳥渡ちょっと、妙に考えたがそのまま、女にいて行った。女中は本降になった外廊下を抜けて、女竹めだけに囲まれた離座敷はなれざしきに案内した。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
窓の女竹めだけに絶えまなく涼風がそよいで、昼の暑さから解かれた肉体は、打たれてもめる気色はなかった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(前略)女竹めだけ三本を節込みにて鯨尺くじらじゃく一尺四寸四分にきり、これを上より全長の十分の三、下より十分の七の所にて苧紐おひもにて結ぶ。その紐の長さも一尺四寸四分なり。
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
五月雨さみだれに四尺伸びたる女竹めだけの、手水鉢ちょうずばちの上におおい重なりて、余れる一二本は高く軒にせまれば、風誘うたびに戸袋をすってえんの上にもはらはらと所えらばず緑りをしたたらす。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一条の小川が品川堀の下を横にくぐって、彼の家の下の谷を其南側に添うて東へ大田圃の方へと流れて居る。最初は女竹めだけの藪の中を流れ、それから稀によしを交えたかやの茂る土堤どての中を流れる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
墓地をかこむ女竹めだけ林は、暮近い風に吹かれて、さむざむと鳴っていた。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
さいわいと藤尾がいる。冬をしの女竹めだけの、吹き寄せてを積る粉雪こゆきをぴんとねる力もある。十目じゅうもくを街頭に集むる春の姿に、ちょうを縫い花を浮かした派出はで衣裳いしょうも着せてある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
窓の女竹めだけにぱらぱらと夜半よわの雨がこぼれた。もう梅雨つゆを過ぎて六月に入っているので、うたた寝の畳もさして冷たくはないが、深酒の後の五体は、何となく骨の髄から身ぶるいが出る。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
百代子が向うの方から御姉さんと呼んだ。吾一は居所も分らない蛸をむやみに突き廻した。突くには二間ばかりの細長い女竹めだけの先に一種の穂先を着けた変なものを用いるのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三味線しゃみせん掛けの赤いきれだの、鏡台に向いてもろはだをおしいでいる女たちだの、ちんとした長火鉢だの、女竹めだけのうえの風鈴ふうりんだのを、いつのまにか、好ましい気持になって、のぞいて歩いた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ中庭のつぼ女竹めだけが、ときおり、かすかなそよぎを見せるだけで——。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中庭の女竹めだけの葉が、裏の欄干越らんかんごしに青々とうごいている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)