奔馳ほんち)” の例文
綸巾りんきんをいただき羽扇うせんをもって、常に三軍を指揮していたという諸葛孔明しょかつこうめいは、四輪車という物に乗って戦場を奔馳ほんちしていたそうですが」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間わずかに途が開かれると、あるいは勢に乗じみずから知らずして遠く突進し、あるいは激せられるところがあって予期せざる方面に奔馳ほんちする。
歴史の矛盾性 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
と、馬は忽ち矢の如く走り出でたのである。つれの馬に遅れまいと、其男が手綱を執つてゐたわしの馬も、宙を飛んで奔馳ほんちする。わし達はひたすらに途を急いだ。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
それから意馬心猿いばしんえんという事、『類聚名物考』に、『慈恩伝』に〈情は猿の逸躁を制し、意は馬の奔馳ほんちつなぐ〉、とあるに基づき、中国人の創作なるように筆しあれど
彼は纍々るゐるゐたる紅球燈の光を浴びて、新富座の木戸口にたたずみつつ、霖雨の中に奔馳ほんちし去る満村の馬車を目送するや、昨日の憤怨、今日の歓喜、ひとしく胸中に蝟集ゐしふし来り
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
水は其中を奔馳ほんちして、最後に洞穴の中へ吸われるように消えてしまうのが上から覗かれる。
渓三題 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
四節は追はずして駿馬しゆんめの如くに奔馳ほんちし、草木の栄枯は輪なくして廻転する車の如し。自然は常変なり、須臾しゆゆも停滞することあるなし。自然は常動なり、須臾も寂静あることなし。
万物の声と詩人 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
この正経着実なる進歩に反してわが邦においてはこの数百年の長程を一瞬一息のうちに奔馳ほんちしついにこれがために数百年前封建の残余と数百年後文明の分子と同一の時代において
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
人一たび勢利のちまた奔馳ほんちするや、時運に激せられて旧習に晏如あんじょたる事あたはず。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
静かなること林のごときあいだにも機をねらって東西に奔馳ほんちしつつある同志の誓言、これらのことが守人の頭脳あたまにひらめくと同時に、たった今までの思慕の感傷を、われから蹴散らすような足取りで
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
馭者台のそばに立ったマドロスは、警鈴をつかんで、大きく振りながら、深夜の異人館町を驚かしつつ奔馳ほんちしてゆく。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼がこんな阿修羅となって乱軍中を奔馳ほんちしたなどは初めてのことである。元来、正成は打物取ッての武勇の質ではなく、阿修羅はいていたのだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
張苞ちょうほうの二人に各〻兵二万をさずけ、遊軍として、諸方の攻め口に万一のある場合、奔馳ほんちして救うべしといいつけてありますから、どうか御心を安められますように
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、この高地からながめても、その広い天賦てんぷの平地も、まるで人間の静脈のように大小無数の河水が奔馳ほんちしていて、人力の痕跡こんせきらしいものは殆ど見えないのである。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
左様仰せられますが、高松の城は、平野と耕田の底地に位置し、四囲には手頃な山々をひかえ、加うるに、足守川あしもりがわをはじめとし、大小七つの河川かせんが八方へ奔馳ほんちしています。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生糸検査所、銀行、美術品店、商館——わずか十年前には見られなかった煉瓦造りの町に、砂糖やメリケン粉を積んだ幌馬車ほろばしゃの馬が、鳴るむちの下に、黄色いほこりをあげて奔馳ほんちしてゆく。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤兎は稀代の名馬で、一日よく千里を走るといわれ、馬体は真っ赤で、風をついて奔馳ほんちする時は、そのたてがみが炎の流るるように見え、将軍の赤兎といえば、知らない者はないくらいだった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一里にわたる大築堤だいちくていも、一方にできあがっていたので、ここにかれた激流は、水けむりの方向を変えて、とうとうと、高松城をめぐるひろい田野や民家のある平地へ目がけて、奔馳ほんちして行った。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奔馳ほんち
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)