奄々えんえん)” の例文
阿諛あゆし、哀願し、心身を蹂躙じゅうりんに委せて反抗の気力も失せはて、気息また奄々えんえんたるもの、重なり重なり乗り越え、飛び越ゆるもの
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
実は、かの女たちの心のおくにも、追いつめられて奄々えんえんたる気息きそくの貞操はまだ生きていた。男に切り売りしているものは貞操ではない。
この気息奄々えんえんたる雑誌に活を入れる大変化が起った、というのは誌名を「シュピオ」と改題し、海野十三、小栗虫太郎、木々高太郎の三氏が
休刊的終刊:シュピオ小史 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
親爺の皮膚は、薄黒く、また黄色ッぽく、白血球は、薬のために抵抗力を失って、まるで棺桶に半脚突ッこんだ病人のように気息奄々えんえんとしていた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
渠等かれらが炎熱を冒して、流汗面にこうむり、気息奄々えんえんとして労役せる頃、高楼の窓半ば開きて、へいげんとばりを掲げて白皙はくせきおもてあらわし、微笑を含みて見物せり。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葉いちめんに灰色や黒の斑点が出来て艶がなくなり、ぐったりと葉を垂れて、いわば、気息奄々えんえんというていである。
顎十郎捕物帳:02 稲荷の使 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
大体人間というものは、空想と実際との食い違いの中に気息奄々えんえんとして(拙者なぞは白熱的に熱狂して——)暮すところのはかない生物にすぎないものだ。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
と、その時まで、塚の真下に、小岩を抱いて、奄々えんえんとした気息で、伏し沈んでいた典膳が、最後の生命力ちからを揮い、胸を反らせ、腰をうねらせ、のけ反った。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
公は漸く其処迄辿り着き、気息奄々えんえんたるさまでとっつきの一軒に匍い込む。扶け入れられ、差出された水を一杯飲み終った時、到頭来たな! という太い声がした。
盈虚 (新字新仮名) / 中島敦(著)
わが邦の文明は三十年前気息奄々えんえんとして前途はなはだ覚束おぼつかなきの旅行をなしたるにもかかわらず、不思議なるかな、電光石火にその方向を一変し、その針路を一転し
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
二列の寝台には見るに堪えない重症患者が、文字どおり気息奄々えんえんと眠っていた。誰も彼も大きく口を開いて眠っているのは、鼻を冒されて呼吸が困難なためであろう。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
はなはだしきに至りては、これを大御所とさえ言うんである。けれども、これはまのあたり山県公を見た人の言う事ではない。面り見ると、もはや顔色憔悴、気息奄々えんえんとしている。
一方梶子と民弥とは、ほとんど気息奄々えんえんとして、辿りついた石棺の一つに縋り、尚ももがき苦しんでいた。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たれの呼吸も奄々えんえんと見えぬはなかった。からだじゅうに干乾ひからびた黒い血や生々と濡れ光ッている鮮血は負ッていたが、どこが痛いと知る感覚はなく、ただもうせつない。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この不幸なる病人は気息奄々えんえんとして死したるごとく、泰助の来れるをも知らざりけるが、時々
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
激烈なる生存競争に敗れて気息奄々えんえんたる、一頭の成牝カウ若くは処女獣をさえ収め得ず、小なる小なるハーレム一つ創り得ずに止む永遠の孤独者、または昨の英雄、かつてのハーレム中の獰猛者ねいもうしゃ
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
真夏の入道雲の下には、蟻地獄ありじごくのような囚人の群れが、腰鎖こしぐさりのまま、気息奄々えんえんと働いていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
普門品ふもんぼん、大悲の誓願ちかいを祈念して、下枝は気息奄々えんえんと、無何有むかうの里に入りつつも、刀尋段々壊とうじんだんだんねと唱うる時、得三は白刃を取直し、電光胸前むなさききらめき来りぬ。この景この時、室外に声あり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかも老武士は数ヵ所の痛手に気息奄々えんえんたるものであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
六月、三国みくに越えを、彼のひきいる人馬は、奄々えんえんと、汗みどろに、北をさしていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「気息奄々えんえん、断末魔!」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ちょうどその時は、気息奄々えんえんの乱れを見せた大月玄蕃が、残れる精力をあつめて、エエーッと最後の気合を全身の毛穴から振り絞って、春日重蔵の小太刀を鍔押つばおしに試みた時であった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駈け寄って、山駕をくくした縄を切りほどくと、銀五郎の体が力なく外へ横仆れになった。さっき、多少の手当てを加えられたので、気はついていたが、奄々えんえんとして苦しそうな息づかい。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見れば気息も奄々えんえんと疲れ果てた老武士が、血気の数名に斬り捲くられている。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奄々えんえんたる人馬の息とにおいが、ふと途切れる、また続く、また途切れる——。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聞くと、奄々えんえんかつにくるしんでいた兵も
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ては起ちも得ず、気息奄々えんえんとなると
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奄々えんえんとした息で——。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)