かこ)” の例文
かの小窮窟な西洋の礼拝堂に貴族富豪のみ車をせて説教を聞くに、無数の貧人は道側に黒麪包パンを咬んで身の不運をかこつと霄壌しょうじょうなり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
十九にして恋人を棄てにし宮は、昨日きのふを夢み、今日をかこちつつ、すぐせば過さるる月日をかさねて、ここに二十はたちあまりいつつの春を迎へぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
何でも才つたなく学浅くしてかたちさへ醜くき男が万づに勝れて賢き美はしき乙女にこがれてとても協はざる恋路にやつるゝ憐れさをかこつたものださうな。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「若い者の心理状態は、何が何やら訳が分らん」——わたしは足元の暗くなつて行く線路の枕木を、足の感覚に頼つて茫然踏んで行きながらかこつたものだ。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
老舗の估券こけんをおとすまいとしているが、梅園の汁粉に砂糖の味のむきだしになったを驚き、言問団子に小豆の裏漉しの不充分をかこつようになっては、駒形の桃太郎団子
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
見するも過世すぐせ因縁いんえんなるか不便の者をとかこちしが我から心を鬼になし道途だうとに迷ふ親の身をたすかる手便てだては此乳子ちごを捨るより外に思案なしと我が子の寢顏ねがほを打ながめ涙ながらに心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
兵のいへことかこたず貧しくも国をたのめてあげにき
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しかもそれらに対して高価な支払をなしたをかこつこと、吾儕の屡次しばしば耳にするところで、旁徒なる懼れに遠かれる都にも、夏にかかる逸楽のあるをお知らせしておきたい。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
されば「都伝摸とても年増夷辺伐いえば様」その広夷ひろいに飽き果て散播都天門さわっても呉弩くれぬかこちて自害した。
然れども、痛苦のはげしく、懐旧の恨にへざる折々、彼は熱き涙を握りて祈るが如くかこちぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
象馬ぞうめ車乗のかしましさに心いよいよ乱れて修行を得ず。地体城中の人民この大仙もし一度でも地を歩まば我ら近く寄りてその足を礼すべきに、毎度飛び来り飛び去るのみで志を遂げぬとかこちいた。
久しい間背中合せの逢いたくても逢われずにいたことをかこって、今の邂逅を喜びかわすその時、山門の仁王両個夜まわりに出でて初めてそれあるを知り、爾来今の如く金網の中にござるという。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)