味気あじけ)” の例文
旧字:味氣
苦しみもない代わりには、普通の生きもののつ楽しみもない。無味、無色。まこと味気あじけないことろうのごとく砂のごとしじゃ。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
といい「なにしろ今日は、降誕祭クリスマス前夜のことだから、ひとりで夜食レウェイヨンをなさるのは、さぞ味気あじけないだろう。それに、妻も非常に希望しているから」
黒い手帳 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
みんなは、また、まえのようにきているのぞみをうしなってしまいました。なんのために、自分じぶんらは、こうして味気あじけない生活せいかつをつづけなければならぬのか。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「日ごと、そちと共に、大坂城のおふすまを描きには通うておるが……。権門けんもんの壁に生涯のぎょうをそそぐのは、時にふと、味気あじけない気がしないでもないのう」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酒場の近くに佇んでいるのに気がつく、そして又もや味気あじけない日常生活が彼の面前にそそり立つのである。
いつも自分で行李こうりめていた一人の時の味気あじけなさが思い出されてきて、「とにかく二人で長くやって行きたい」とこんなところで、——みょうにあまくなってゆく。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
こらえに耐えている心の痛憤や、それらのものをどうかするとえがたくはかなく味気あじけなく思わせた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まして私ごとき鐚一文びたいちもんの関係もない一介いっかいの僧侶が、国際上の事に関係したかのように思わるるのは味気あじけなき事と、余りの事に私はあきれ果ててしばらく何もいわずに居ったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
モーそのころわたくしにはなかなにやら味気あじけなくかんじられてょうがないのでした。
彼はいかにも無雑作むぞうさに答えた。しかし、答えてしまって妙な味気あじけなさを覚えた。それはちょうど精いっぱい力を入れて角力をとっている最中、何かのはずみで、がくりと膝をついたような気持だった。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼は、なんだか、もう生きているのが味気あじけなくなった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しきりと味気あじけなかった。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
まれわるという信仰しんこうが、どれほど味気あじけない生活せいかつ活気かっきをつけたかしれません。「」ということがこんなに、このときほど意義いぎのあることにおもわれたかわかりません。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「くさすなくさすな。あれが人間の弱さじゃろ。——ひと事とせず、心得ておらねばならぬ。人もひとたび、心まで落ちぶれると、味気あじけない迂愚うぐ堕落だらくを、てんとして辿たどるものではある」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)