呉服ごふく)” の例文
人だかりのまん中に立った商人あきゅうど。彼は呉服ごふくものをひろげた中に立ち、一本の帯をふりながら、熱心に人だかりに呼びかけている。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
てゝせり呉服ごふくるかげもなかりしが六間間口ろくけんまぐちくろぬり土藏どざうときのまに身代しんだいたちあがりてをとこ二人ふたりうちあに無論むろんいへ相續あととりおとゝには母方はゝかたたえたるせい
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見て心打解うちとけ成程考へ候へば加納將監樣の呉服ごふくの間に澤の井と申て甚だ不器量の女中御座候やに存じ候去乍さりながら宿やどの儀は存じ申さずとおもなげに云を次右衞門は聞てさらば澤の井の宿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日本橋通り四丁目に八間口の呉服ごふく屋を開いて、一時越後屋の向うを張つた『福屋善兵衞』、丁稚でつち小僧八十人餘りも使はうといふ何不足ない大世帶の主人ですが、先月の末から
大工町、檜物ひもの町、金屋かなや町、鍛冶かじ町、鋳物師いもじ町、銅町、呉服ごふく町、紙屋町、箪笥町、紺屋こうや町等々工藝の町々が歴史を負って至る所に残る。それらは多く吾々を待っている場所と考えていい。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
連尺商いのもう一つ前には、日本はひじりまたは山臥やまぶしという旅をする宗教家があって、それが修行のかたわらにわずかずつの物品を地方にはこんで、呉服ごふくとか小間物こまものとかの商売を開いたと言われている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
引連ひきつれ主人の方に立歸り主個あるじ夫婦長三郎の前にて今日けふ奉行所の容子ようすをばちく演説えんぜつしたる上三たり呉服ごふく町の親類方へあづけおきて歸りたるまで委細のことを述たるに親子はおみつが庄兵衞をころせしことを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あぶらの乘り切つた男盛りを、親讓りの金があり過ぎて、呉服ごふく太物ふともの問屋の商賣にも身が入らず、取卷末社を引つれて、江戸中の盛り場を、この十年間飽きもせずに押し廻つて居る典型的なお大盡です。