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合壁
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がつぺき
晴すべしと其夜
近所合壁の
寢靜りたる頃藤重が家に
忍び行て見るに是は如何に
何程開かんとしても
戸は
釘にて
外より
打ち
付て有ば少しも
開ず内の樣子を
お
美尾お
美尾と
目の
中へも
入れたき
思ひ、
近處合壁つゝき
合ひて
物爭ひに
口を
利く
者は
無かりし。
何かにつけては
美学の
受売をして
田舎者の
緋メレンスは
鮮かだから
美で江戸ツ子の
盲縞はジミだから
美でないといふ
滅法の
大議論に
近所合壁を
騒がす事少しも
珍らしからず。
探り候へども藤五郎樣御兄弟の
行衞は一向に存じ申さずと申し
其上惣右衞門は病氣にて
臥居り
又彼が
悴重五郎も他國へ
行しよしにて家内には
只惣右衞門夫婦のみ
居候まゝ
種々尋ね候へ共何分知らざる由ゆゑ夫れより近所
合壁にて承たまはり候と雖どもこれと申す
取留たる儀は御座なく候とぞ申しける