可憐あはれ)” の例文
可笑をかしき可憐あはれなる事可怖おそろしき事種々しゆ/″\さま/″\ふでつくしがたし。やう/\東雲しのゝめころいたりて、水もおちたりとて諸人しよにん安堵あんどのおもひをなしぬ。
光景ありさまを眺めて居た丑松は、可憐あはれな小作人の境涯きやうがいを思ひやつて——仮令たとひ音作が正直な百姓気質かたぎから、いつまでも昔の恩義を忘れないで
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
邪慳じやけんに、胸先むなさきつて片手かたて引立ひつたてざまに、かれ棒立ぼうだちにぬつくりつ。可憐あはれ艶麗あでやかをんな姿すがたは、背筋せすぢ弓形ゆみなりもすそちうに、くびられたごとくぶらりとる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お前のほかに妻と思ふ者は無い、一命に換へてもこの縁は切られんから、おれのこの胸の中を可憐あはれと思つて、十分決心してくれ、と実に男を捨てて頼んだではないか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
渉らうとしても渉り得ない二人の児童こどもが羨ましがつてび叫ぶを可憐あはれに思ひ、汝達には来ることの出来ぬ清浄の地であるが、然程に来たくば渡らしてるほどに待つて居よ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
唯、蓮太郎夫婦に出逢つたこと、別れたこと、それから飯山へ帰る途中川舟に乗合した高柳夫婦——就中わけても、あの可憐あはれな美しい穢多の女の身の上に就いては、決して一語ひとことも口外しなかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
今もの熱海に人は参り候へども、そのやうなるたのしみを持ち候ものは一人も有之これあるまじく、其代そのかはりには又、私如わたくしごと可憐あはれの跡を留め候て、其の一夜いちやを今だに歎き居り候ものも決して御座あるまじく候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)