叫喚さけび)” の例文
下に一の處あり、苛責のために憂きにあらねどたゞ暗く、そこにきこゆる悲しみの聲は歎息ためいきにして叫喚さけびにあらず 二八—三〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
火の風にれて家から家に移つて行くいきほひ、人のそれを防ぎねて折々発する絶望の叫喚さけび、自分はあの刹邪せつなこそ確かに自然の姿に接したと思つた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
私は恐ろしい肉の叫喚さけびをまのあたり聴いた。見ると三等室のドアーが開いて、高谷千代子が悠々ゆうゆうとプラットホームに降りた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
時に蝕しつつある太陽を、いやが上におおい果さんずる修羅の叫喚さけび物凄ものすさまじく響くがごとく、油蝉の声の山の根に染み入る中に、英臣は荒らかな声して
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僧侶らしい顔もあった。皆の顔は苦痛のために、眼は引釣ひきつり、口はゆがみ、唇や頬には血が附いていた。そこからは嵐のような呻吟うめき叫喚さけびれていた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
悲鳴するような叫喚さけびが、山に反響して雑然ざわざわ如何いかにも物凄くきこえてくるので、乗客は恐ろしさにえず、皆その窓を閉切しめきって、震えながらに通ったとの事である。
大叫喚 (新字新仮名) / 岩村透(著)
夢の中には、一こんの月があった。墨のごとき冷風は絶え間なく雲をそよがせ、その雲の声とも風の声ともつかない叫喚さけびがやむと、寝所のとばりのすそに、誰か平伏している者がある。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然うして絹針のやうに細く鋭い女の叫喚さけびの聲がその中に交ぢつてゐる樣な氣もした。それが自分の聲のやうであつた。みのるの身體中の血は動いた儘にまだゆら/\としてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
叫喚あっと云ってふるえ出し、のんだ酒も一時にさめて、うこんなうちには片時も居られないと、ふすまひらき倉皇そうこう表へ飛出とびだしてしまい芸妓げいぎも客の叫喚さけびに驚いて目をさまし、幽霊ときいたので青くなり
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
紙帳から脱出のがれだすことなど、何んでもなかったのであろうが、次から次と——部屋の間違い、気絶、斬り合いの叫喚さけび、次から次と起こって来た事件のため、さすがの彼女も心を顛倒てんとうさせていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
男と女と老人と子供の声のまじった、山くずれのような叫喚さけびであった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
瞬間たまゆら叫喚さけびき、ヸオロンぞめしひたる。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かたはらから憤怒に堪へぬといふやうな血気の若者の叫喚さけびが聞えた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
鉛になやむ地のくだの苦しき叫喚さけび
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
とこの世も終りと云はぬばかりの絶望の叫喚さけびすさまじく聞えた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)